2024.04.25 麻酔科抄読会
担当:劉 丹
Restrictive or Liberal Transfusion Strategy in Myocardial Infarction and Anemia
J.L. Carson, M.M. Brooks, P.C Hebert et al. N Engl J Med 2023;389:2446-56
背景:現在ヘモグロビン濃度が7~8g/dL未満に低下した場合に輸血を行う戦略が広く採用されているが、急性心筋梗塞の患者に対しては、より高いヘモグロビン濃度での輸血が有益である可能性がある。
方法:この研究は第3相介入試験で、ヘモグロビン濃度が10g/dL未満の心筋梗塞患者を、Restrictive戦略(輸血のためのヘモグロビンカットオフ値を7または8g/dL)またはLiberal戦略(カットオフ値を10g/dL未満)にランダムに割り付けました。主要アウトカムは、30日以内の心筋梗塞または死亡の複合イベントとした。
結果:合計3504人の患者が主要解析に含まれた。輸血されたRBCの単位数の平均(±標準偏差)は、Restrictive群で0.7±1.6単位、Liberal群で2.5±2.3ユニットでした。ランダム化後の1~3日目において、Restrictive群の平均ヘモグロビン濃度はLiberal群よりも1.3~1.6g/dL低かった。主要アウトカムイベントは、Restrictive群の1749人中295人(16.9%)、Liberal群の1755人中255人(14.5%)に発生した(追跡が不完全なデータに対する多重代入を用いたリスク比、1.15;95%信頼区間[CI]、0.99~1.34;P=0.07)。死亡率は、Restrictive群で9.9%、Liberal群で8.3%(リスク比、1.19;95% CI、0.96~1.47)だった。心筋梗塞はそれぞれの群で8.5%および7.2%の患者に発生した(リスク比、1.19;95% CI、0.94~1.49)。
結論:急性心筋梗塞と貧血を有する患者において、Liberal戦略は、30日以内の心筋梗塞の再発や死亡のリスクを有意に低下させなかった。Restrictive戦略よりもLiberal戦略の方が何らかの利点がある可能性が示唆されたが、さらなる追加の研究が必要となる。
抄読会でのDiscussion
- 医者に盲検化されていなかったため、診療の際にプロトコルの基準に反して輸血しなければならない状況もあったと思うが、基準に反して輸血した、もしくは輸血しなかった人の割合は?
詳しい割合はわからないが、それらを全て含めて解析されている結果となっている。 - 輸血をするかしないかの議論はずっとなされており、昔は古い血液を使ったことによる害の報告が多く、ガイドラインで使用期限が決まったのが二十数年前。その後、10年程前のStudyでは輸血による免疫反応などの害があるため輸血しない方が良いと言われるようになった。その後は輸血を制限しすぎるStudyが増え、現在はある程度輸血に寛容的な方がいいのではないかという考え方になってきているようだ。
- 麻酔科としての術中管理で、やはりHb値だけで輸血を判断するのは良くなく、心筋の酸素需要と供給を判断して輸血を検討するべきである。
亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 江村 薫乃
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔