2024.05.28 麻酔科抄読会
担当:初期研修医 石川 菜々子
指導:杉山 大介
Effect of Dexmedetomidine on Postpartum Depression in Women With Prenatal Depression: A Randomized Clinical Trial
Zhou, Yingyong et al. JAMA network open vol. 7,1 e2353252. 2 Jan. 2024, doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.53252
重要性:産後うつ病(PPD)は、世界中で大きな公衆衛生上の問題として浮上している。PPDが発生する特定の時期や状況では、予防的介入の機会が提供されますが、PPDに対する薬理学的予防戦略はまだ確立されていない。
目的:帝王切開を受ける妊娠期うつ病の女性における産後うつ病の予防に対するデクスメデトミジンの有効性と安全性を評価する。
デザイン:このランダム化臨床試験には、2022年3月28日から2023年4月16日までの期間、中国湖南省の2つの病院で妊娠期うつ病のスクリーニングで陽性となった338人の女性が登録された。 エジンバラ産後うつ病評価尺度(Edinburgh Postnatal Depression Scale)のスコアが9点以上で、18歳以上で予定帝王切開が予定されている女性が対象となった。
介入:参加者は、コンピューターにより生成されたグループ無作為化により、デクスメデトミジン群と対照群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。デクスメデトミジン群と対照群では、分娩後10分間、それぞれデクスメデトミジン0.5μg/kgと0.9%生理食塩水を静脈内投与した。注入後、コントロール群とデクスメデトミジン群のそれぞれで、48時間、患者が自分でコントロールする静脈内鎮痛法を用いて、スフェンタニルまたはデクスメデトミジンとスフェンタニルの投与が行われた。
主な結果と評価方法:主要評価項目は、産後7日目と42日目の陽性PPDスクリーニング結果で、産後エジンバラ産後うつ病尺度のスコアが9点以上と定義された。分析は、intention-to-treat(治療方針)に基づいて行われた。
結果:338人の参加者はすべて女性で、平均年齢(SD)は31.5(4.1)歳であった。デクスメデトミジン投与群と対照群における産後7日目と42日目の産後うつ病スクリーニング陽性率は、有意に減少した(7日目:167人中21人[12.6%] vs 165人中53人[32.1%]、リスク比0.39[95% CI、0. 25-0.62]; P < .001; 42日目、167人中19人[11.4%] vs 165人中50人[30.3%]; リスク比、0.38 [95% CI、0.23-0.61]; P < .001)。デクスメデトミジン投与群では、有害事象の発生率に有意差は認められなかった(169例中46例[27.2%] vs 169例中33例[19.5%]、P = 0.10)。しかし、低血圧の発生率は増加した(169人中31人[18.3%] vs 169人中16人[9.5%];リスク比、2.15[95% CI、1.13-4.10];P = 0.02)。
結論:産褥早期のデクスメデトミジン投与により、PPDスクリーニング陽性例の発生率が有意に低下し、安全性に問題はなかった。
抄読会でのDiscussion:
① デクスメデトミジン投与後に産後出血量の変化や母乳移行性に関しての言及はあるか?
→特に言及されておらず、短期間の少量投与であったため大きな影響はなかった可能性がある。
② 対象患者が帝王切開に限定されていることに理由はあるか?
→先行研究と同様の設定ではあるが、明確な記載はない。
③ 1週間目と6週間目という検査のタイミング設定にはどのような理由があるのか?
→産後うつの定義として分娩後2週間以上の症状の持続があり、2週間以降の効果を判定する目的だと考えられる。
④ 硬膜外麻酔は使用しているか?
→今回は使用せず、IV-PCAで対応されている。
⑤ BDNFは微量の差だが、今回のように大きな差がでるものか?また一般的に採血できるものなのか?
→微量の差であっても症状の差を生じる可能性が先行研究で示唆されている。一般施設での採血検査はには難しい。
⑥ BDNFやproBDNFは1週間以降の採血はないのか?
→Limitationにも挙げられているが採血されていない。BDNFは長期間維持されるものではなく、周術期に関与するものではないかと思われる。
⑦ デクスメデトミジンの投与タイミング(分娩直後か疼痛管理後か)に言及は?
→詳細な記載はないが、分娩後早期の投与が望ましいとされている。
⑧ 産後うつの定義に、出産前からうつの人は入るのか?分娩直前にうつの人に投与しても分娩後にうつであることに変わりはないのではないか?
→元々うつの素因を持つような方々が産後うつになりやすいという報告はあり、今回の研究デザインではそのハイリスクをどのように定義するのかが難しい点であったと思われる。ハイリスク患者を分類するために分娩直前にうつに近い方を選択したと考えられる。
亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 淡谷 直希
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔