2024.05.23 麻酔科抄読会

担当:初期研修医 安田 友子
指導:植田 健一

Anaesthetic depth and complications after major surgery: an international, randomised controlled trial

Short TG, Campbell D, Frampton C, et al. Lancet. 2019;394(10212):1907-1914. doi:10.1016/S0140-6736(19)32315-3

背景:麻酔深度の増加と長期術後死亡率との関連は観察研究で示されているが、無作為化比較試験によるエビデンスは不足している。無作為に浅麻酔、深麻酔群に割り付けて、大手術を受けた高齢患者における全死因一年死亡率を比較した。

方法:7ヵ国73施設での国際臨床試験にて、60歳以上でASA-PSが3か4、手術時間が2時間以上、入院期間が2日以上と予想される患者を募集した。大手術後の合併症リスクが高い患者を、浅麻酔(bispectral index [BIS] target 50)と深麻酔(BIS target 35)に無作為に割り付けた。麻酔科医は割付群を知らされる前に、手術中の各患者において適切な目標平均動脈圧を明示した。Primary outcome は一年全死因死亡率であった。

結果:患者は2012年12月19日から2017年12月12日の間に登録された。6644例が登録され、BIS 50群またはBIS 35群に無作為に割り付けられ、intention-to-treat解析が行われた。BIS中央値はBIS 50群で47.2、BIS 35群で38.8であった。BIS 50群ではBIS 35群と比較すると平均動脈圧は3.5mmHg (4%) 高く、揮発性麻酔薬の使用量は0.26MAC(30%)低かった。一年後死亡率はBIS 50群で 6.5%(212例)、BIS 35群で7.2%(238例)であった(HR 0.88、95%CI 0.73~1.07、ARR 0.8%、95%CI -0.5~2.0)。

結論:大手術後の合併症リスクが高い患者において、浅麻酔は深麻酔と比較して全死因一年死亡率に有意差はなかった。

Discussion:
Q1. BIS値は血圧の影響を受けるという話もあるが、目標術中血圧の達成率に関する記載はあったか?
 達成率に関する記載はないものの、BIS 35群の方が有意に平均血圧は低かった。

Q2. 術中覚醒一例の詳細は?
 特に記載なく、詳細不明。一般的な術中覚醒率と比較してもBIS 50群の術中覚醒率は低く、問題ないという論調であった。

Q3. 国別のサブグループ解析はあったか?
 全体での解析しかしていないように思われる。

Q4 手術時間に有意差はなかったということだが、麻酔時間は?浅麻酔群の方が麻酔時間は短いのでは?
 手術時間の定義に関しては詳細はなかったものの、麻酔時間とは別であると考えられる。

Q5. 鎮痛薬などの麻酔薬に関する規定はあったか?昇圧剤使用に関する規定は?
 特に規定はなく、BIS値をコントロールするための鎮痛薬や吸入麻酔薬のバランスは各自でばらつきがあると思われる。

Q6. 麻酔深度のせん妄に対する影響が昨今話題になっているが、せん妄に関する評価はされたのか?
 長期での神経性疼痛やWHODAS2.0 (The World Health Organization Disability Assessment Schedule) などの評価はなされているが、せん妄の評価はない。おそらく短期的合併症よりも長期的合併症に主眼がおかれた研究だと思われる。

Q7.神経性疼痛評価のアンケートで有意差があったということだが?
 アンケートもどのような評価手法を使ったのか詳細がないが、著者等はスコアの差から臨床的に有意な差ではないと考えている。神経障害性疼痛と診断された患者の割合自体は特に有意差はない。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 山本

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔