2024.05.16 麻酔科抄読会
担当:荻野 仁史
Serratus Anterior Plane Blocks for Early Rib Fracture Pain Management:
The SABRE Randomized Clinical Trial
Partyka C, Asha S, Berry M, et al. JAMA Surg. Published online May 01, 2024. doi:10.1001/jamasurg.2024.0969
背景:救急外来でよく遭遇する肋骨骨折は、不十分な鎮痛によって高齢者に肺炎や呼吸不全などの合併症リスクにもたらす。前鋸筋面ブロック(SAPB)は、胸部の痛みを軽減し、簡便に施行できる末梢神経ブロックである。SABRE試験は、SAPBが肋骨骨折患者の疼痛管理、オピオイド使用量や呼吸器合併症の減少に寄与するかを評価した。
方法:本研究はオーストラリアの8病院で行われた多施設前向き非盲検無作為化比較試験で、16歳以上の肋骨骨折患者約200人を対象としたものである。除外基準には、挿管患者、妊娠患者、GCS≦13の患者、及び胸部以外の多発外傷患者が含まれた。対象群の患者には標準治療のみを行い、SAPB群の患者には標準治療に加えて、0.375%ロピバカインを用いてSAPBを行った。主要評価項目は試験登録4時間後の深呼吸時のNumerical rating scale(NRS)が最大値から2以上低下した、もしくは絶対値が4以下の割合とした。ただし認知症のある患者ではNRSの代わりに、同じ10点満点のPain assessment in advanced dementia(PAINAD)スケールを用いて評価した。
結果:主要評価項目において、SAPB群の92名中38名(41%)が達成したのに対し、対照群では92名中18名(19.6%)であった(RR 0.73、95%CI 0.60-0.89、P = .001)。さらに、SAPB群は対照群と比べて、オピオイド消費量が臨床的に有意に減少した(24時間後のオピオイド必要量:中央値[IQR]45[19-118]vs 91[34-155]mg;モルヒネ換算)。一方で、肺炎発生率(10% vs 11%)、入院期間(中央値[IQR]4.2[2.2-7.7]vs 5[3-7.3]日)、30日間の死亡率(1% vs 4%)は両群で有意な差が見られなかった。
結論:SABRE試験では、標準治療にSAPBを追加することで、痛みを有意に減少させ、オピオイド必要量も減少することが示された。
Discussion:
Q1. 8施設間で標準治療プロトコールにやや違いがあるのはなぜか?
A1. 鎮痛内容及びInclusion criteriaがやや異なっていたが、その理由は説明されていない。また、臨床登録サイトやサプリメントのファイルにも明言されていない。
Q2. Primary outcomeに痛み評価スケールとして用いられたPAINADとは何か?
A2. PAINADスケールは呼吸・発声・表情・ボディランゲージ・慰めやすさの5つの角度から、それぞれ0−2点で評価するものである。本研究では、65歳以上の患者にはPAINADスケールを用いて評価した。
Q3. SAPBで肋骨骨折の鎮痛ができるのか?
A3. SAPBの主なターゲットは肋間神経となるが、中枢側への広がりも期待できるためだと考えている。
Q4. SAPB以外にESPBなど、より骨折に鎮痛効果が高いブロックもあるが、なぜSAPBが選択されたのか?
A4. 救急外来というシチュエーションであり、また骨折のため体位変換が難しい患者に対して、仰臥位で簡便に施行できるという点が、今回の研究でSAPBが評価される理由と考える。
亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔