2024.03.28 麻酔科抄読会

担当:初期研修医 依田 恵
指導:柘植 雅嗣

Association Between Intraoperative Landiolol Use and In-Hospital Mortality After Coronary Artery Bypass Grafting: A Nationwide Observational Study in Japan

Anesthesia & Analgesia 137(6):p 1208-1215, December 2023.
DOI: 10.1213/ANE.0000000000006741

背景:超短時間作用型β1選択的遮断薬であるランジオロールは、術中や術後の頻脈生不整脈の治療、重症患者の心房細動や粗動の治療に用いられてきた。一方、CABG施行患者の院内死亡率へのランジオロールの効果判定は不十分だった。そこで今回は、CABG術中ランジオロール使用と院内死亡率との関連を評価した。

患者:2010年7月1日から2020年3月31日までにCABGを施行された患者
除外基準:20歳未満、入院時に心房細動があった人、同時に心房細動手術を受けた人、心房細動の既往がある人

方法:DPC診療情報を用いて、傾向スコアマッチングされたコホートについて、ランジオロール群とコントロール群に分けた。Primary outcomeは院内死亡率とした。

結果:ランジオロール群は、コントロール群よりも院内死亡率が低かった。(3.7% vs 4.3%; オッズ比、0.86 ; 95%CI, 0.78-0.94 ; P=0.001)。また、ランジオロール群では、院内死亡率の低下や術後のドブタミン使用、腎代替療法の頻度が有意に低かった。一方、術後のノルアドレナリンやアドレナリンの使用、術後の人工呼吸器使用期間の延長、入院期間、術後脳梗塞の発生率、退院後のワルファリンやDOAC処方の割合については、有意差はなかった。

結論:CABG術中のランジオロール使用は、院内死亡率の低下や術後のドブタミン使用、腎代替療法の頻度を減少させ、総医療費の削減に繋がった。今後のRCTが期待される。

Discussion
Q1. 術中ランジオロールの適応は?デメリットは?
A1. 術中ランジオロールの適応は、既存または新規Afが適応となる。高度の頻脈・過収縮やAf tachyは心臓・全身酸素消費量の上昇につながること、特にOff-pumpの場合は外科手技が難しくなるため、ランジオロールによるレートコントロールが行われることがある。デメリットとして、陰性変力作用により循環抑制され、術後に臓器の低灌流が起こり、特に脳梗塞のリスクが高まる可能性がある。

Q2. 施設によるバイアスが懸念となるが、解析に変量として施設が入っているか?
A2. 当研究の多変量解析には、大きい施設かどうかが変量の一つとして入っている、それ以上の検討は行われていない。また、主な使用適応である術前・術中Afの症例が除外されているため、ランジオロール投与を決めている施設や麻酔担当者によるバイアスの影響があるかもしれないが、DPC診療情報からのデータにより、検討できる範囲は限定されている。

Q3. β阻害薬の使用で新規Afを予防できると思うが、この研究ではランジオロールによる術後の新規Af発生率について検討はあるか。
A3. Outcome設定には新規Afが含まれていないが、DOAC処方であれば、両群間に差が見られなかった。

Q4. ランジオロール術中用量・術後用量との関連はあるか。用量依存性なのか。
A4. DPC診療情報のため用量との関連は不明である。

Q5. OPCABも対象に入っているが、両群間に差はあるか。
A5. OPCABが約20000件含まれており、両群間に差が見られなかった。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔