2024.03.26 麻酔科抄読会

担当:長尾 / 杉山先生
Selective Inhibition of NaV 1.8 with VX-548 for Acute Pain
J. Jones, et al., N Engl J Med., 2023 Aug 3;389(5):393-405.

1952年、HodgkinとHuxleyがヤリイカの巨大軸索を用いた実験により、電位依存性ナトリウムチャネルの存在を予測しました。以来70年を経た現在、哺乳類の電位依存性ナトリウムチャネルにはNaV1.1~1.9の9種類のサブタイプがあり、それぞれ中枢神経、骨格筋、心筋、末梢神経に特異的に分布することが分かっています。この中で末梢神経に分布するNaV1.7、NaV1.8、NaV1.9を選択的に阻害することで、副作用の少ない鎮痛薬が実現できると考えられ、近年多くの薬剤で第1相・第2相試験が行われましたが、期待される結果は得られませんでした。そんな中、NaV1.8を選択的に阻害する新薬VX-548について、第2相試験でポジティブな結果が得られたというのが今回の論文の主旨です。2024年1月にはVX-548の第3相試験の結果が発表され、その結果を受けて2024年半ばには新薬申請が行われる見通しです。

Patient: 腹壁形成術、外反母趾手術後に急性疼痛のある患者

Intervention: VX-548群

Comparison: プラセボ群、ヒドロコドン+アセトアミノフェン群

Outcome:【主要項目】NRSの改善度の48時間にわたる時間荷重合計(SPID48)、【副次項目】SPID24、初回投与の48時間後に疼痛の改善がベースから30%/50%/70%以上改善した患者の割合、副作用・血液検査・12誘導心電図・バイタルサイン

方法:二重盲検ランダム化比較試験。腹壁形成術では、①VX-548高用量群、②VX-548中用量群、③ヒドロコドン+アセトアミノフェン群、④プラセボ群の4群に1:1:1:1にランダムに割り付けて48時間観察。外反母趾手術では、①VX-548高用量群、②VX-548中用量群、③VX-548低用量群、④ヒドロコドン-アセトアミノフェン群、⑤プラセボ群の5群に2:2:1:2:2にランダムに割り付けて48時間観察。

結果:2つの試験のどちらも、主要評価項目でありSPID48が、VX-548高用量群でプラセボより有意に大きかった。中用量群、低用量群では、プラセボ群と比較してVX-548の有意な差がなかった。副作用としては、腹壁形成術ではVX-548高用量群で頭痛、便秘が多かった。薬剤投与と関連した重篤な副作用はなかった。

Discussion

  • Primary outcomeの算出法は、有意差が微妙なものを有意差が出るように計算を工夫しているようにも見える。
  • 局所麻酔薬中毒については、末梢神経の選択的Naチャネルブロッカーであるため問題になりにくいのでは。
  • 投与法は内服。内服された薬剤がどのような機序で末梢神経に特異的に作用するのか作用機序が気になる。
  • 高用量を投与した場合のみプラセボと比較して有意差が出ている。例えばリドカイン静注だと増量しようとしても不整脈などの副作用を考慮しなければならないが、末梢神経のNaチャネルを選択的にブロックする薬剤ならまだ増量する余地があるかもしれないため、より鎮痛に有利かもしれない。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 若山

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔