2024.02.27 麻酔科抄読会

担当:若山/杉山先生

Intraoperative Use of Phenylephrine versus Ephedrine and Postoperative Delirium: A Multicenter Retrospective Cohort Study
Haobo Ma. M.D., et al., Anesthesiology, November 15, 2023 , Volume Publish Ahead of Print

背景
フェニレフリンによる術中低血圧の治療は、血管収縮を介して脳灌流を障害する可能性があり、これが術後せん妄と関連している。そこで、術中のフェニレフリン投与はエフェドリン投与と比較して術後せん妄の発生確率を上昇させるという仮説を検証した。

方法
2008年から2020年の間にマサチューセッツ州の2つの3次医療機関で非心臓、非神経外科手術の全身麻酔を受けた成人入院患者103,094例が組み入れられた。Primary exposureは、手術中のエフェドリンと比較したフェニレフリン投与で、Primary outcomeは術後7日以内のせん妄の発生率であった。患者層、併存疾患、術中低血圧の程度など、事前に定義された交絡変数で調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った。

結果
2つの医療機関で、術中にフェニレフリンを投与された患者は78,982例(76.6%)、エフェドリンを投与された患者は24,112例(23.4%)であり、術後7日以内にせん妄を発症した患者は770例(0.8%)であった。フェニレフリンの術中総投与量の中央値(四分位範囲)は1.0(0.2~3.3)mg、エフェドリンは10.0(10.0~20.0)mgであった。調整後の解析では、フェニレフリン投与はエフェドリン投与と比較して、7日以内に術後せん妄を発症するリスクが高かった(調整オッズ比 1.35;95%CI 1.06~1.71;調整絶対リスク差 0.2%;95%CI 0.1~0.3%;P = 0.015)。分数多項式回帰分析により、フェニレフリンの用量依存的効果が示された(調整係数 0.08;95%CI、0.02~0.14;P=0.013[フェニレフリン累積用量が1 mcg/kg増加するごとに])。

結論
全身麻酔中のフェニレフリン投与は、エフェドリン投与と比較し、術後せん妄発症のリスクが高かった。術中低血圧の治療においてフェニレフリンよりもエフェドリンを優先することが術後せん妄を減少させることができるかどうかを決定するための臨床試験が期待される。

Discussion

  • PaCO2が交絡因子になっている可能性は除外できない。
  • 非常に大規模でアメリカらしい試験。メガボリュームなので、信頼区間がそこまででも有意差ありと報告できる。これだけの規模でp値が0.0001とかではないため、臨床的に有意かというと微妙なところ。
  • 患者背景について。Afの有無などcoronaryが悪い人にβ作用のあるエフェドリンが第一選択にはなりにくく、背景が薬剤選択に影響している可能性がある。
  • エフェドリンを8-12 mgくらい投与し、反応が悪いためフェニレフリンを投与する、という投与法はよく実施されている印象。今回も投与量の中央値をみると、エフェドリンは10 mgだがフェニレフリンは1 mgで、直感的にフェニレフリンがかなり多いように感じられる。そのような背景が薬剤選択に関わっている可能性は十分あり、単純にフェニレフリン対エフェドリンで、フェニレフリンでせん妄リスク上昇、とは言いづらいのでは。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 若山

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔