2024.03.19 麻酔科抄読会
担当:三上 眞由
指導:植田 健一
論文:Driving pressure-guided ventilation and postoperative pulmonary complication in thoracic surgery: a multicenter randomized clinical trial
P:選択的肺切除術(肺区域切除・肺葉切除・両葉切除・スリーブ状切除・肺切除)の成人患者
I:リクルートメント(PEEPを5→10→15 cmH2Oと上昇させ、その後1 cmH2Oずつ減らしていき最もdriving pressureが低いPEEPで維持)を人工呼吸開始時、片肺換気開始時、両肺換気開始時の合計3回施行
C:人工呼吸開始時にリクルートメントを1回施行
O:患者特性に関しては両群間で偏りなし。driving pressureと胸郭コンプライアンスに関してはdriving pressure群でdriving pressureが対照群と比較して2 cmH2O低いという結果であったが有意差の検出にはいたらなかった。
Primary endpointの術後呼吸器合併症に関しては両群間で有意差なし。
Secondary endpointのPaO2、P/Fに関してはdriving pressure群で統計学的有意差をもって良いという結果であった。その他のAKIやせん妄、敗血症在院日数などに関しては両群間で有意差の検出には至らなかった。
結論:
Driving pressure-guided ventilationはガス交換能を改善したものの、術後7日間の肺合併症の発生率の改善はもたらさなかった。
Q1:術後合併症は術後何日の段階で評価したものなのか。術後酸素投与の期間とP/Fなどの評価のタイミングなどはいつなのか。
A:術後の酸素投与に関しては術後24時間以降に酸素投与した場合、SpO2<90%となった場合を記録した。また、P/Fに関しては術中に評価しており、片肺換気を開始して15分後のタイミングで評価を行った。
Q2:本研究での麻酔方法はどのような麻酔方法が多かったか。
A:麻酔方法も今回の研究結果に影響すると考えられるが、論文中には記載されていなかった。多施設研究であり、麻酔方法の統一などはできていない可能性が高いと考えられる。
Q3:protective群ではなぜ術中のリクルートメントの回数は1回だけだったのか。
A:明記はされていなかったが、driving pressure群では術中に3回のリクルートメント、protective群ではリクルートメントは1回のみであり、両群を比較するためにはprotective群もリクルートメントを3回にするべきであったと考える。
Q4:Primary Outcomeを複数設定しているが、このようなOutcomeの設定の仕方は一般的なのか。
A:もともとの術後肺合併症の発生率が数%であり、driving pressureによる術後肺合併症に対する有効性を検出するために複数設定していると考えられる。しかし、複数設定することで研究結果の解釈を複雑にしている可能性はある。
その他、論文に関連して以下のような意見も見られました。
以前はCO2をはかせる、換気が大事とされており、両肺換気から片肺換気にした後でもTV10~12 mL/kgの換気量を従量式換気で設定していた。現在では肺保護の観点からもTV 5~6mL/kgで設定している。肺の手術を受けられるような患者では呼吸機能もそれほど悪くはないので今回の研究結果で得られたようなdriving pressureの2の差が果たして臨床的なOutcomeを変えるのかは疑問。
このサイトの監修者
亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔