2024.03.14 麻酔科抄読会

担当:後期研修医2年目 竹下 学
指導:植田 健一
論文:Multicenter, Randomized, Placebo-controlled Crossover Trial Evaluating Topical Lidocaine for Mechanical Cervical Pain

目的:
アメリカにおいて頚部痛や腰痛は障害損失年数(理想的ではない健康状態で過ごす年数)の第一位で、生涯有病率は48.5%を占めている。
頚部痛に対して明確なエビデンスのある治療は確立されていないが、貼付剤の処方は増加傾向で医療費問題の一因ともなっている。
今回の研究では慢性の頸部痛(3ヶ月以上)に対するリドカインパッチ(貼付剤)の有効性を明らかにすることと、リドカインパッチが有効な患者群の特徴を明らかにすることを目的に二重盲検化多施設ランダム化クロスオーバー試験を行なった。

介入方法:
対象患者は18〜90歳の頚部痛を有する患者で、介入方法は下記の通り。
Group1:プラセボパッチ貼付(4週間)→1週間休薬→リドカインパッチ貼付(4週間)
Group2:リドカインパッチ貼付(4週間)→1週間休薬→プラセボパッチ貼付(4週間)

主要評価項目:
average neck painの減少

副次評価項目:
average neck painおよびworst neck pain、頸部運動の障害の程度、睡眠の質、圧痛閾値の平均値、パッチを使用したことによる、副作用(皮膚反応など)、鎮痛薬の処方の減少、患者満足度 (Patient Global Impression go Change )

結果:
Primary Outcome : リドカインパッチ使用後は1点、プラセボパッチ使用後は0.5点の改善が見られているが統計学的な有意差はなし

Secondary Outcome : average neck pain、worst neck pain、Neck Disability Indexなど両群間で有意差のある評価項目はなかった

結論:
リドカインパッチ使用によりneck painは改善傾向を示したが統計学的有意差の検出には至らなかった。

抄読会でのDiscussion Point
Q1:今回の研究で行われたクロスオーバー試験とは一体どのような研究なのか。
A:対象を2群に分け、各群に別々の治療を行い評価した後に、各群の治療法を交換して再度評価する方法。前の治療条件の影響が次の治療条件の結果に影響を与える可能性があるため今回の研究ではリドカインの半減期なども考慮して1週間の休薬期間を設けてあります。

Q2:なぜ今回の研究では神経障害性疼痛を除外して筋・筋膜性疼痛による頸部痛の患者を対象としたのか。
A:リドカインパッチが浸透するのが皮下1 cm程度付近の組織であるため、より効果が出ると考えられる筋・筋膜性疾患を対象とした。

Q3:リドカインパッチとNSAIDsパッチはどのように作用するのか。
A:リドカインの作用機序はよく知られているように、Naチャネルを遮断することで鎮痛作用を示す(痛みの信号が電線を伝わるのを遮断するイメージ)。
一方でNSAIDsは炎症性物質の産生を抑えることで鎮痛作用を示す(炎症性物質により痛みの信号が発生すること自体を抑える)。

Q4:リドカインを含む短時間作用型の局所麻酔薬を硬膜外などで持続投与すると耐性ができると習ったことがあるが、ペイン領域ではどうか。
A:実臨床では耐性を実際に感じたことはない。

・今回の研究でよりよい結果を出すために、
① 今回の研究では慢性痛の患者を対象としているため、リドカインの効果がより期待される急性痛の患者を対象とする
② リドカインパッチにカプサイシンも混ぜることでより作用を増強することも考慮される。

ペインをご専門にされている先生方のお話も伺いながら非常に活発な議論が行われた抄読会となりました。
より良い結果を出すためにはどうしたら良いのかなど、取り扱った論文を批判的に読むだけでなく改善するとしたらどうしたらいいのかなど前向きな読み方も学ことができ大変有意義な抄読会となりました。

亀田総合病院 後期研修医 竹下 学

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔