2024.1.23 麻酔科抄読会

担当:初期研修1年目 卜部 真輝
指導:杉山 大介

Predictors of Low Risk for Delirium during Anesthesia Emergence
麻酔覚醒時におけるせん妄低リスク因子の予測

背景
PACUでのせん妄は高齢の手術患者で発症頻度が高い。術後患者のせん妄発症を予測する方法として導入が容易な脳波が利用できる可能性がある。
この研究では脳波を術中の麻酔深度をモニタリングするだけでなく、麻酔覚醒時のせん妄発症リスクを予測するためのツールとして利用し、術後せん妄を発症する低リスク因子について検討した。

方法
先行研究で得られた患者群のデータをpost hoc解析することで術後せん妄発症の低リスク因子を検討した。
この研究には、プロポフォール、セボフルラン、またはデスフルランで維持された全身麻酔下で手術を受けた169人の患者(年齢中央値、61歳[49、73])の脳波データを利用した。研究者らはB I Sで一般的に使用されているFp2でモニタリングした脳波を選択し、EEG から合計およびスペクトル帯域パワーを計算、傾きとして表現される麻酔覚醒時のパラメーターの変化を観察するための線形回帰モデルを計算した。

結果
事後解析した169人の患者のうち、32人(19%)がせん妄を示しました。 覚醒時に総脳波出力が最も減少した患者は、麻酔後ケアユニットでせん妄のスクリーニング陽性となる可能性が低い結果となった。
回帰モデルを使用して評価された総パワーと帯域パワーの正の傾きは、せん妄のリスク比が高いことと関連していた(total, 2.83 [95% CI, 1.46 to 5.51]; alpha/beta band, 7.79 [95% CI, 2.24 to 27.09])。さらに、覚醒時の複数のバンドの負の傾きはせん妄のない患者に特有であり、低リスクの患者の同定に利用できる可能性がある。

議論
本研究では術後せん妄発症の低リスク患者の同定にB I Sが有用であることが示唆された。
一般的にはβ帯域の活動は一般的に覚醒に関連するとされているものの,今回の結果からはそのpowerが減少傾向の方が良い可能性がある.せん妄状態のEMG活動がEEG記録に影響を与えている可能性も示唆される。
また、せん妄のスクリーニング方法としてCAM ICUを使用しているが、これは他のスクリーニング方法と比較して感度が低いという問題なども今回の研究のLimitaionとしてあげられる。
今後の展開として、せん妄を発症する低リスク患者を同定する因子よりも、高リスク患者を同定する因子に関するさらなる研究が期待される。

亀田総合病院 麻酔科 専攻医 竹下

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔