2022.11.10 麻酔科抄読会

担当:麻酔科後期研修医1年目 竹下 学/ご指導:小林 収 先生
タイトル:定量的筋弛緩モニタリングと周術期アウトカム: A Narrative Review
Glenn S. Murphy, M.D., Sorin J. Brull, M.D., F.C.A.R.C.S.I. (Hon)
Anesthesiology 2022; 136:345-61

概要
術中に神経筋モニタリングを行うことで術後の残存筋弛緩に伴う予定外の再挿管や低酸素血症、上気道閉塞などのリスクが有意に減少し術後の呼吸予後を改善するというデータがこれまでの研究で示されている。
いくつかの国際麻酔科学会でもそれらのデータに基づいて神経筋遮断薬を使用する際には必ず術中に神経筋モニタリングを行うように勧告している。
そこで本論文では周術期における神経筋モニタリング、特に定量的筋弛緩モニタリングの有用性を再度検討する目的でレビューを行った。

筋弛緩モニタリングの意義
術中の筋弛緩モニタリングの意義としては大きくは3つある。

  1. 神経筋遮断薬の効果発現を知る
  2. 神経筋遮断薬の追加投与量およびタイミングを知る
  3. 手術室退室時に残存筋弛緩がないことを確認する

特に術後の合併症回避の観点からは手術室退室時に残存筋弛緩がないことを確認することの意義が大きい。

刺激方法
1.Train of four
・非脱分極性筋弛緩薬による神経筋遮断の程度を評価
・2Hz, 4回の刺激を行う
・4回目の刺激に対する振幅と1回目の刺激に対する振幅の比T4/T1算出する
・シナプス後ろ受容体の70~80%が不活化されると減衰現象がみられる

2.Posttetanic count
・TOF0の状態で50Hz, 5秒間の刺激を加える
・神経筋接合部のアセチルコリンを一時的に増加させることで一過性に筋収縮を得る

神経筋モニタリング方法
神経筋モニタリング方法としてはMechanomyography、EMG、Acceleromyography、Kinemyography、Cuff pressure modalityがあり、現在臨床でのゴールドスタンダードは加速度モニタリングとされているが、校正をしないとTOF>1.0となることに注意が必要である。

残存筋弛緩について
残存筋弛緩とはTOF比<0.9の状態とされており、TOFがベースラインまで回復したとしても術後の患者ではFVCは84±0.11%、低酸素応答は86±25%までしか回復していないというデータがある。
定量的筋弛緩モニタリングと残存筋弛緩の発生率、術後呼吸器合併症を検討した研究は複数あり、どの研究でも術中の定量的筋弛緩モニタリングを使用した群では優位に残存筋弛緩と術後呼吸器合併症の頻度は低かった。
残存筋弛緩の状態で抜管された患者では術後呼吸器合併症の頻度が高いだけでなく、再挿管となる頻度も高いとされていることも踏まえると、神経筋遮断薬を使用した場合には定量的神経筋モニタリングを使用することが推奨される。

結語
術中の定量的筋弛緩モニタリングは残存筋弛緩とそれに伴う術後の低酸素血症、上気道閉塞、再挿管の発生率を有意に減少させる。
術中に筋弛緩を使用する場合には定量的筋弛緩モニタリングを使用することが必要である。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 竹下学

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療