注目論文:血液悪性腫瘍・造血細胞移植患者における市中呼吸器ウイルス感染症の管理(ECIL-10)

呼吸器内科
血液悪性腫瘍や造血細胞移植(HCT)といった免疫不全患者における市中呼吸器ウイルス感染症は、しばしば重症化し、臨床現場での判断に難渋します。このECILの最新推奨は、SARS-CoV-2以外のウイルスも含め、インフルエンザやRSウイルスなど頻度の高い感染症に対する現在の標準的な考え方をまとめた実用的な内容です。特に、インフルエンザに対する早期治療の推奨と予防内服の非推奨、RSウイルスに対する新規ワクチン・抗体製剤のエビデンスの乏しさ、そして他の多くのウイルスには支持療法しかないという現状が明確に示されています。このハイリスク集団に対するエビデンスの構築が急務であることを再認識させられます。
Community-acquired respiratory virus infections in patients with haematological malignancies or undergoing haematopoietic cell transplantation: updated recommendations from the 10th European Conference on Infections in Leukaemia
血液悪性腫瘍または造血細胞移植を受ける患者における市中呼吸器ウイルス感染症:第10回欧州白血病感染症会議からの最新推奨
von Lilienfeld-Toal M, Khawaja F, Compagno F, et al.
Lancet Infect Dis. 2025 Aug 27:S1473-3099(25)00365-2.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40885198/
背景:
2013年に発表された第4回欧州白血病感染症会議(ECIL-4)の市中呼吸器ウイルス(CARV)感染症に関する推奨を更新するため、2014年1月1日から2024年6月30日までの間に出版された、血液悪性腫瘍患者または造血細胞移植(HCT)を受ける患者におけるアデノウイルス、ボカウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、メタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)、ライノウイルスに関する文献をレビューした。

推奨の要旨:
今回のECIL-10推奨では、全てのCARV(SARS-CoV-2を含む)に対する感染対策、検査、診断への共通アプローチと、SARS-CoV-2以外のCARVに対する特異的な管理・延期戦略の概要を示す。インフルエンザウイルスに対しては、季節性不活化ワクチンと早期の抗ウイルス薬投与が推奨されるが、免疫不全患者へのルーチンな抗ウイルス薬予防内服は推奨されない。RSVに対しては、血液悪性腫瘍患者やHCT施行患者におけるエビデンスは乏しいものの、地域の承認状況に応じて認可済みワクチンの使用を考慮できる。2歳未満の小児にはパリビズマブまたはニルセビマブによる受動免疫が推奨されるが、年長の小児や成人における曝露前・曝露後予防や治療に関するデータは不十分である。重度の免疫不全スコアを有するHCT患者には、経口リバビリンまたは静注免疫グロブリン、あるいはその併用が推奨される。その他のCARVについては、支持療法、免疫機能の改善、低ガンマグロブリン血症の是正、ステロイドの慎重な減量のみが推奨される。本稿は、血液悪性腫瘍患者およびHCT施行患者におけるCARV関連の罹患率と死亡率を減少させるための、予防接種と抗ウイルス薬におけるアンメットニーズを強調する。