注目論文:米国における50歳以上の成人への肺炎球菌ワクチン新推奨:その意義と課題

呼吸器内科
米国ACIPが肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の接種対象を、リスクの有無にかかわらず50歳以上の全成人に拡大しました 。これは、リスクベースの推奨ではワクチン接種率が伸び悩む現状と 、特に50-64歳で顕著な人種間の罹患率格差を是正する狙いがあります 。背景には成人疾患に特化したPCV21の登場があります 。一方で、費用対効果や 、50歳で接種した場合の長期的な免疫持続性(waning)という課題も残ります 。日本の今後のワクチン戦略を考える上でも、この米国の新たな推奨の背景と今後の動向は非常に参考になります。
米国ACIPが肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の接種対象を、リスクの有無にかかわらず50歳以上の全成人に拡大しました 。これは、リスクベースの推奨ではワクチン接種率が伸び悩む現状と 、特に50-64歳で顕著な人種間の罹患率格差を是正する狙いがあります 。背景には成人疾患に特化したPCV21の登場があります 。一方で、費用対効果や 、50歳で接種した場合の長期的な免疫持続性(waning)という課題も残ります 。日本の今後のワクチン戦略を考える上でも、この米国の新たな推奨の背景と今後の動向は非常に参考になります。
https://doi.org/10.7326/ANNALS-25-01178
背景:
肺炎球菌性疾患は、米国において年間推定225,000人の肺炎球菌性肺炎による入院と30,000人の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を引き起こすなど、依然として大きな疾病負荷となっています 。これまでの肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の推奨は、65歳以上の全成人と、特定の疾患リスクを持つ19~64歳の成人が対象でした 8。しかし、リスクに基づいた推奨は年齢ベースの推奨よりもワクチン接種率が低く 9、特に50~64歳の年齢層で顕著な人種間のIPD発生率の格差に対処するには不十分でした

新推奨とその根拠:
2024年10月23日、米国予防接種諮問委員会(ACIP)は、PCV未接種の50歳以上のすべての成人に対してPCVを推奨しました 。この大きな方針転換の背景には、2024年6月に認可された新しい21価PCV(PCV21)の存在があります 。PCV21は、小児と成人の両方を対象とするPCV15やPCV20とは異なり、成人の疾患に特化して設計されており、免疫原性の低下を最小限に抑えつつ、50歳以上の成人におけるIPD症例の80%以上をカバーする、現在推奨されているワクチンの中で最も広い血清型カバー率を達成しています 。この新たな年齢ベースの推奨は、接種勧奨を簡素化し、これまでリスクベースでは伸び悩んでいた50~64歳層の接種率を向上させ、人種間の健康格差を是正することが期待されています

課題と今後の展望:
この推奨拡大にはいくつかの課題も伴います。経済モデルによっては、50~64歳の健常成人に接種した場合の費用対効果が、一般的に参照されるベンチマークを大幅に上回ることが示されました 。また、50歳という比較的若い年齢で接種することにより、15~20年後にワクチンの防御効果が減衰(waning)し、高齢期に疾患への感受性が高まるリスクが懸念されます 。このため、65歳未満で接種した成人に対する追加接種の必要性を検討するには、さらなるデータが必要です 。また、PCV21は一部地域で流行している血清型4を含んでいないため、地域の疫学情報を考慮したワクチン選択が重要となります 。この新推奨の成功には、ワクチン接種率や疾患疫学の動向を監視し、新たなエビデンスに基づいて将来的に方針を改良していくことが不可欠です 。