注目論文:COPD患者における低用量モルヒネの睡眠と呼吸苦への影響

呼吸器内科
COPD患者の呼吸困難に対する低用量モルヒネの使用は、近年注目されています。本研究は、低用量モルヒネが睡眠に与える影響を客観的に評価した重要なランダム化クロスオーバー試験です。結果として、モルヒネは睡眠効率や睡眠時無呼吸の頻度には影響を与えないものの、夜間の酸素飽和度を低下させ、経皮的CO2レベルを上昇させる、すなわち夜間低換気を引き起こす可能性が示唆されました。これは、COPD患者におけるモルヒネ使用の安全性について再考を促すものであり、呼吸困難の緩和というメリットと、睡眠中の低換気リスクというデメリットを慎重に比較検討する必要があることを示唆しています。特に重症COPD患者や睡眠時呼吸障害を合併している患者では、より慎重な投与が求められるでしょう。
The Effects of Low-Dose Morphine on Sleep and Breathlessness in COPD: A Randomized Trial
COPDにおける低用量モルヒネが睡眠と呼吸困難に及ぼす影響:ランダム化試験
Altree TJ, Pinczel AJ, Toson B, Loffler KA, Hudson AL, Zeng J, Proctor S, Naik G, Mukherjee S, Catcheside P, Somogyi A, Currow DC, Eckert DJ.
Chest. 2025 Jun;167(6):1578-1590.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39675518/
背景:
低用量モルヒネは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)における慢性の呼吸困難を軽減するために処方されることがあります。主観的な所見からは、モルヒネが睡眠関連のメカニズムを介して呼吸困難に影響を与える可能性が示唆されています。しかし、COPD患者におけるオピオイドの安全性については懸念が存在し、COPD患者の睡眠中のモルヒネの影響は客観的に調査されていませんでした。本研究は、低用量モルヒネがCOPD患者の睡眠に与える影響を客観的に決定することを目的としました。

研究デザイン:
本研究は、呼吸困難を伴うCOPD患者19名(女性7名を含む)を対象とした、徐放性モルヒネ(20mg/日を3日間投与し定常状態)対プラセボのランダム化二重盲検クロスオーバー試験です。主要評価項目は、検査室での一晩のポリソムノグラフィー(PSG)中の睡眠効率でした。副次および探索的評価項目には、睡眠時呼吸障害(イベント数/時間)、酸素化、経皮的CO2レベル、血液および生理学的バイオマーカー、睡眠と呼吸困難の関係、外部抵抗負荷反応、運転シミュレーターの性能が含まれました。生理学的アウトカムと薬物動態は、各PSGの前後に測定されました。

結果:
睡眠効率はプラセボ群とモルヒネ群で同程度でした(66 ± 17% vs 67 ± 19%;P=.89)。モルヒネは睡眠時呼吸障害イベントの頻度を変化させませんでしたが、呼吸数は減少させました。モルヒネは、夜間の平均および最低酸素飽和度をそれぞれ2%(95% CI, -2.8% to -1.2%)および5%(95% CI, -8% to -1%)低下させました。平均経皮的CO2は、モルヒネ投与時の方がプラセボ投与時よりも睡眠中に3.3 mmHg(95% CI, 1.6-5.1 mmHg)高値でした。モルヒネ投与時では8名(42%)の参加者が米国睡眠医学会(AASM)の夜間低換気基準を満たしたのに対し、プラセボ投与時では4名(21%)でした(P=.02)。モルヒネは呼吸困難を系統的に軽減せず、翌日の運転シミュレーターの性能を損なうこともありませんでした。副作用(最も頻繁には吐き気)はモルヒネ投与で増加しました。

結論:
定常状態の低用量モルヒネは、睡眠効率、睡眠時呼吸障害の頻度、または翌日の覚醒度を変化させないものの、睡眠中の低換気を引き起こす可能性があり、これは潜在的に有害な影響であると考えられます。