注目論文:乳児RSウイルス感染症に対するニルセビマブの実臨床での有効性:システマティックレビューとメタアナリシス

呼吸器内科
乳児におけるRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)感染症は、特に冬場の医療逼迫の一因ともなり得る重要な疾患です。ニルセビマブは本邦でも2024年から使用可能となり、重症化予防の新たな選択肢として期待される薬剤です。その実臨床での有効性を示す本システマティックレビューとメタアナリシスは非常に時宜を得たものです。結果は、RSウイルス関連の入院、集中治療室(ICU)入室、下気道感染症(LRTI)の発生を有意に抑制することを示しており、臨床試験での効果が実環境でも確認された意義は大きいです。入院期間に有意差がなかった点はさらなる検討が必要かもしれませんが、全体としてニルセビマブ導入による乳児RSウイルス感染症の疾病負荷軽減と医療資源利用の抑制効果は明らかと言えるでしょう。今後の日本のデータにも期待したいところです。
Real-world effectiveness of nirsevimab against respiratory syncytial virus disease in infants: a systematic review and meta-analysis.
乳児におけるニルセビマブのRSウイルス感染症に対する実臨床での有効性:システマティックレビューとメタアナリシス
Sumsuzzman DM, Wang Z, Langley JM, Moghadas SM.
Lancet Child Adolesc Health. 2025 May 1:S2352-4642(25)00093-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40319903/
背景:
ニルセビマブは2023年に承認され、いくつかの高所得国において、RSウイルスによる下気道感染症(LRTI: Lower Respiratory Tract Infection)を予防するために、全乳児への免疫化プログラムに導入されました。広範なニルセビマブプログラムの実臨床における有効性に関する知見は、臨床試験で観察された利益を検証し、免疫化政策の指針とする上で極めて重要です。我々は、乳児免疫化プログラムが導入された集団におけるニルセビマブの実臨床での有効性を評価しました。

研究デザイン:
このシステマティックレビューとメタアナリシスのために、2023年1月1日から2025年2月25日までにMEDLINE、Embase、Web of Science、Scopus、Global Health、およびmedRxivを検索し、日常診療における2歳以下の乳児を対象とした免疫化プログラムで、ニルセビマブの実臨床での有効性に関するオリジナルデータを報告している観察研究を特定しました。主要解析は12ヶ月以下の乳児に焦点を当てました。RSウイルス関連入院、集中治療室(ICU: Intensive Care Unit)入室、およびRSウイルス関連LRTI発生率について、逆分散ランダム効果モデルを用いて統合解析を行いました。入院期間については、制限付き最尤ランダム効果モデルを用いて、ニルセビマブ群と対照群の間の加重平均差(WMD: Weighted Mean Difference)を日数で推定しました。この研究はPROSPEROに登録されています(CRD42024628782)。

結果:
1238件の記録を特定しスクリーニングを行い、そのうち5カ国(フランス、イタリア、ルクセンブルク、スペイン、米国)からの32件のコホート研究および症例対照研究をシステマティックレビューに含め、うち27件をメタアナリシスに含めました。0~12ヶ月の乳児において、ニルセビマブはRSウイルス関連入院のオッズ低下(オッズ比 0.17; 95% CI 0.12-0.23; I2=85.8%)、ICU入室のオッズ低下(0.19; 95% CI 0.12-0.29; I2=55.6%)、およびLRTI発生率のオッズ低下(0.25; 95% CI 0.19-0.33; I2=35.1%)と関連していました。しかし、入院期間はニルセビマブ群と対照群の間で差はありませんでした(WMD 0.01日; 95% CI -0.63~0.65; I2=62.3%)。

結論:
我々の結果は、臨床試験で観察されたニルセビマブの利益が実臨床環境においても明らかであり、乳児におけるRSウイルス疾患の負担を効果的に軽減し、結果として医療資源の使用を減少させることを示しています。