注目論文:ニューモシスチス肺炎における治療開始後の診断検査の有用性:HIV患者と非HIV患者での重要な違い

呼吸器内科
本研究はニューモシスチス肺炎(PCP)の診断における治療開始後の検査陽性率を検討した貴重な報告です。特に注目すべきは非HIV患者では治療開始後すぐにBALF中のPCR陽性率が低下する一方、HIV患者では治療開始から数日経過後も検査陽性率が維持されるという点です。日常診療では、PCPが疑われればまず治療を開始し、その後に気管支鏡検査を行うことも少なくありませんが、本研究結果から非HIV患者では可能な限り早期に検査を行うべきであることが示唆されます。HIV診療と非HIV診療でのPCP診断アプローチの違いを示した臨床的に非常に有用なエビデンスと考えられます。
Positivity of polymerase chain reaction and Grocott staining in relation to the duration from therapy initiation to examination in Pneumocystis jirovecii pneumonia
ニューモシスチス肺炎における治療開始から検査までの期間とポリメラーゼ連鎖反応およびグロコット染色の陽性率の関係
Shimoda M, Nunokawa H, Tanaka Y, Bamba Y, Kikuchi T, Ishiguro T, Suzuki A, Kobayashi F, Takahashi T, Ohta K, Ishii H.
Respir Investig. 2025 Apr 28;63(4):548-553.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40300409/
背景:
ニューモシスチス肺炎(PCP)の診断は気管支肺胞洗浄液(BALF)の顕微鏡検査やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に依存しています。ニューモシスチス・イロベチイ(P. jirovecii)は治療開始後でも検出可能ですが、信頼性の高い検査が可能な正確な期間は不明です。本研究では、PCPの診断検査と治療開始から検査までの期間との関係を調査しました。

研究デザイン:
2019年1月から2024年8月までの期間に、4施設で診断基準に基づいてPCPと診断された105名の患者データを後ろ向きに収集しました。治療開始から検査までの期間とそれに対応する検査結果を検討しました。

結果:
105名の患者のうち、46名がBALFのP. jirovecii PCR検査を、44名がBALFのグロコット染色検査を受けました。56名が喀痰検査を受けました。非ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者では、BALFにおけるP. jirovecii PCRの陽性率は治療開始後に低下する傾向がみられました。グロコット染色の陽性率は治療の有無にかかわらず低いままでした。HIV患者全員がBALFでP. jirovecii PCRまたはグロコット染色で陽性結果を示しました。BALFでP. jirovecii PCR陽性結果を示した患者のうち、治療開始から検査までの期間はHIV患者の方が非HIV患者よりも有意に長かった(2.5日[範囲0-7]対0日[0-4]、p < 0.001)。

結論:
すでに抗PCP治療を受けている非HIV患者では、PCP診断のためのBALF検査はできるだけ早期に実施すべきです。対照的に、HIV陽性患者では治療開始後でもPCPの診断が可能です。