注目論文:免疫チェックポイント阻害薬治療を受けた関節リウマチ合併非小細胞肺癌患者の生存率

呼吸器内科
本論文はICIによる治療を受けた転移性NSCLC患者において、関節リウマチ(RA)合併の有無が全生存期間に影響を与えるかをMedicareデータを用いて検討した後ろ向きコホート研究です。RA患者は非RA患者と比較して女性が多く、併存疾患やステロイド使用も多いという背景の違いがあるものの、生存率には有意差は認められませんでした。特記すべきは、がん緩和目的のデキサメタゾン使用患者を除外した感度分析では、ステロイド投与量と予後との関連性も消失した点です。免疫関連有害事象のリスクが懸念されるRA患者でも、適切な管理下ではICIによる生存期間の短縮がないことを示した貴重なエビデンスと言えます。
Survival in immune checkpoint inhibitor-treated patients with rheumatoid arthritis and non-small cell lung cancer: an observational cohort study
免疫チェックポイント阻害薬治療を受けた関節リウマチおよび非小細胞肺癌患者の生存率:観察コホート研究
Jannat-Khah DP, Xie F, Saxena A, Curtis JR, Bass AR.
Arthritis Care Res (Hoboken). 2025 Apr 28. doi: 10.1002/acr.25561.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40289860/
背景:
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は自己免疫疾患を有する患者では免疫関連有害事象(irAE)のリスクが上昇する可能性があり、臨床試験では除外されることが多い集団です。本研究は既存の関節リウマチ(RA)を有する転移性非小細胞肺癌(mNSCLC)患者において、ICIによる治療後の全生存期間(OS)をRA非合併患者と比較検討しました。

研究デザイン:
米国のMedicareクレームデータを用いた後ろ向きコホート研究を実施しました。対象は66歳以上で肺・気管支の悪性腫瘍と診断され、2015年3月4日から2019年4月11日の間(FDAがmNSCLCに対するICI承認後、ステージIII疾患に対する最初の承認前)にニボルマブ、ペムブロリズマブ、またはアテゾリズマブによる治療を開始した患者です。カプランマイヤー法と調整済みコックス比例ハザードモデルを用いた生存分析を行いました。

結果:
分析対象コホートは2,732人のmNSCLC患者(RA 790人、非RA 1,942人)でした。RA患者は非RA患者と比較して女性が多く、併存疾患も多い傾向が見られました。RA患者は非RA患者よりもステロイド服用率が高かったものの(63% vs 45%)、がん緩和治療に通常処方されるデキサメタゾンの使用率は同程度でした(27% vs 28%)。RAと非RAのNSCLC患者間でカプランマイヤー生存曲線に差はなく(ログランクp値=0.08)、調整後モデルでも全生存期間に有意差は認められませんでした(ハザード比 0.92 [0.78, 1.09])。男性、併存疾患が多いこと、およびICI開始前のステロイド投与量が高いことは、より悪い生存期間と関連していました。ベースラインでデキサメタゾンを服用していた患者を除外した感度分析では、ICI開始前のステロイド投与量はもはや生存期間の悪化と関連していませんでした。

結論:
人口統計学的要因と併存疾患を調整した後、ICIによる治療を受けたmNSCLCのRA患者は、非RA患者と比較して全生存期間に有意差はありませんでした。デキサメタゾン服用患者を除外した場合、ステロイド投与量は生存期間の悪化と関連していませんでした。これらの結果から、RA患者においてもICIによる治療効果は非RA患者と同等であることが示唆されました。