注目論文:非HIV免疫不全患者のニューモシスチス肺炎における治療開始時期と予後の関連性

呼吸器内科
本研究は当科の藤岡医師が1st authorで実施した,非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎(PCP)の治療開始時期と予後の関連を多施設後ろ向きコホートで検討したものです。興味深いことに、入院後2日以内の早期治療群と3-7日の遅延治療群で30日死亡率・180日死亡率に有意差がないという結果でした。これは非HIV-PCP診療において、経験的早期治療よりも確実な診断に基づく適切な治療が重要であることを示唆しています。
Association of time-to-treatment with prognosis in pneumocystis pneumonia among immunocompromised patients without HIV infection: a multi-center, retrospective observational cohort study
非HIV免疫不全患者におけるニューモシスチス肺炎の治療開始時期と予後の関連:多施設後ろ向き観察コホート研究
Fujioka H, Matsui H, Homma Y, Nagai T, Otsuki A, Ito H, Ohmura S, Miyamoto T, Shichi D, Tomohisa W, Otsuka Y, Nakashima K.
BMC Infect Dis. 2025 Apr 15;25(1):531.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40234819/
背景:
非ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者におけるニューモシスチス・イロベチイ肺炎(PCP)は高い罹患率と死亡率に関連しています。先行研究では治療の遅延が予後悪化と関連していることが示されていますが、それらの研究はしばしば少ないサンプルサイズと交絡因子の不十分な調整に制限されています。そこで我々は、患者特性を調整した上で、入院後の早期治療が非HIV-PCPの死亡率を改善するかどうかを評価しました。

研究デザイン:
この多施設、後ろ向き、観察コホート研究は、2006年1月から2021年3月までの間に3つの施設で治療を受けた非HIV-PCP患者を対象としました。参加者は早期治療群(2日以内に開始)と遅延治療群(3-7日目に開始)に分けられました。主要評価項目は30日死亡率、副次評価項目は180日死亡率でした。患者背景を調整するために傾向スコア加重法が使用されました。

結果:
早期治療群94名と遅延治療群43名が評価されました。早期治療群と遅延治療群の平均治療開始時間はそれぞれ0.13日と3.63日でした。患者特性を調整した後、早期治療群と遅延治療群の間で30日死亡率(14.0%対8.2%、p=0.307)または180日死亡率(21.5%対17.7%、p=0.600)に有意差はありませんでした。酸素補給を必要とする症例のサブグループ解析においても、30日死亡率と180日死亡率は両群間で有意差を示しませんでした。

結論:
本研究は、非HIV-PCPにおいて早期治療開始が30日または180日死亡率と有意に関連していなかったことから、即時の経験的治療よりも正確な診断と疾患重症度に基づいた個別化された管理の重要性を強調しています。