注目論文:2024/2025年インフルエンザA/H1N1流行時の医療従事者における低いHI抗体価とワクチン有効性の関係

呼吸器内科
COVID-19流行で数年間抑制されていた季節性インフルエンザが2024/2025年に日本で大流行しましたが、本研究はその背景にワクチン接種後の血球凝集抑制(HI)抗体価が著しく低いことを示しています。東京の医療研究センターの調査では、ワクチン接種した医療従事者の87.3%が防御レベル(HI抗体価≥40)に達していませんでした。しかし、防御レベル未満でも抗体価が高いほど感染リスクが段階的に低下することが示されました。
Low levels of post-vaccination hemagglutination inhibition antibodies and their correlation with influenza protection among healthcare workers during the 2024/2025 A/H1N1 outbreak in Japan
2024/2025年の日本におけるA/H1N1流行時の医療従事者のワクチン接種後血球凝集抑制抗体価の低値とインフルエンザ防御との相関
Yamamoto S, Mizoue T, Ujiie M, Horii K, Takeuchi JS, Konishi M, Sugiura W, Ohmagari N.
J Infect Dis. 2025 Apr 10.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40209094/
背景:
季節性インフルエンザの流行が抑制されていた長期にわたるCOVID-19パンデミックの後、日本は2024/2025年シーズンに記録的なインフルエンザA/H1N1の流行を経験しました。この状況は、毎年の不活化インフルエンザワクチンの免疫原性に関する懸念も引き起こしています。本研究では、医療従事者におけるワクチン接種後の血球凝集抑制(HI)抗体価とインフルエンザ感染リスクとの関連性を評価しました。

研究デザイン:
東京の国立医療研究センターのスタッフを対象に、不活化インフルエンザワクチン接種から1ヶ月後の2024年12月に血清調査が実施されました。ワクチン株に対するHI抗体価が測定され、参加者は2025年1月までインフルエンザ感染について追跡されました。防御レベル(血清防御)はHI抗体価≥40と定義されました。ワクチン接種参加者におけるHI抗体価と感染リスクとの関連性はCox比例ハザードモデルで評価されました。

結果:
ワクチン接種を受けた1,507人の参加者のうち、A/H1N1に対する血清防御レベルのHI抗体価を持つ者はわずか12.7%でした。約90%は少なくとも4シーズンのインフルエンザ罹患歴がなく、2シーズン以上繰り返しワクチン接種を受けていました。HI抗体価<40の参加者は、抗体価≥40の参加者と比較して4倍高い感染リスクを示しました。抗体価40未満の範囲内でも用量反応関係が観察されました。抗体価<10と比較して、抗体価10および20はそれぞれ47.3%および57.9%の防御効果を示しました。

結論:
主要なインフルエンザ流行がない長期間の後、A/H1N1に対するHI抗体価はワクチン接種を受けた医療従事者において極めて低いものでした。それにもかかわらず、比較的低いレベルであっても、ワクチン接種後のHI抗体価が高いほど防御と関連しており、ワクチンの有益性を支持する結果となりました。