注目論文:気管支拡張症における吸入ステロイド薬の使用実態:欧州気管支拡張症レジストリ(EMBARC)からのデータ

呼吸器内科
欧州の19,324名という大規模な気管支拡張症患者コホートを対象に、吸入ステロイド薬(ICS)の使用実態を検討した貴重な研究です。喘息、COPDやABPAを合併していない気管支拡張症患者の32.7%にICSが処方されており、国によって17%から85%と使用頻度に大きな差があることが明らかになりました。特筆すべきは血中好酸球数高値の患者サブグループでは、ICS使用により増悪頻度が30%減少していることです。この知見は、気管支拡張症患者の中にもICSの恩恵を受ける集団が存在することを示唆しており、好酸球性炎症を有する患者に対する治療戦略を再考する必要があります。
Use of inhaled corticosteroids in bronchiectasis: data from the European Bronchiectasis Registry (EMBARC)
気管支拡張症における吸入ステロイド薬の使用:欧州気管支拡張症レジストリ(EMBARC)からのデータ
Pollock J, Polverino E, Dhar R, Dimakou K, Traversi L, Bossios A, Haworth C, Loebinger MR, De Soyza A, Vendrell M, Burgel PR, et al.
Thorax. 2025 Mar 23.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40122611/
背景:
現在の気管支拡張症ガイドラインでは、喘息、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を合併する患者を除いて、吸入ステロイド薬(ICS)の使用は推奨されていない。本研究は、欧州全域の気管支拡張症患者におけるICSの使用実態を明らかにすることを目的とした。

研究デザイン:
2015年から2022年にかけて、欧州気管支拡張症レジストリに登録された気管支拡張症患者を対象とした。患者はベースライン時にICS使用群と非使用群に分類し、ICS使用に関連する臨床的特徴を調査した。患者は最大5年間にわたり、増悪、入院、および死亡という臨床アウトカムについて追跡された。また、高値の血中好酸球数(検査室の正常上限値を超える)が増悪に対するICSの効果を修飾するかどうかを評価した。

結果:
分析対象となった19,324名のうち、10,109名(52.3%)がベースライン時にICSを処方されていた。喘息、COPDやABPAの既往のある患者を除外した後も、9,715名中3,174名(32.7%)の気管支拡張症患者にICSが処方されていた。ICSの使用頻度は国によって異なり、対象患者の17%から85%までの範囲であった。ICS使用群はより重症で、肺機能が有意に悪く、気管支拡張症重症度指数(BSI)スコアが高く、ベースライン時の増悪頻度も多かった(p<0.0001)。全体として、ICS使用群は追跡期間中の増悪リスクや入院リスクの減少は認められなかったが、血中好酸球数高値のサブグループでは増悪頻度の有意な減少が観察された(相対リスク0.70、95%信頼区間0.59-0.84、p<0.001)。

結論:
ICSの使用は気管支拡張症において一般的であり、現在の気管支拡張症ガイドラインではICSが推奨されていない患者群でも使用されている。ICSの使用は血中好酸球数高値の患者において増悪頻度の減少と関連している可能性がある。