注目論文:肺炎球菌結合型ワクチン時代における単純性・複雑性急性中耳炎の18年間縦断研究(2006-2023)

呼吸器内科
この研究は急性中耳炎(AOM)の疫学的変化をPCV7時代からPCV13時代に至る18年間にわたり追跡した貴重な長期研究です。特に注目すべきは、複雑性AOM(cAOM)の原因菌として肺炎球菌(特に19A血清型)がPCV13導入後に著明に減少し、その効果が持続していることです。一方、インフルエンザ菌(H. influenzae)はcAOMの主要原因菌として残存しており、今後のワクチン戦略を考える上で重要な知見を提供しています。当院での小児中耳炎診療においても、PCV13導入後に治療抵抗性中耳炎の減少を実感しており、本研究はその科学的根拠を示す重要な研究と言えます。
Eighteen Year Longitudinal Study of Uncomplicated and Complex Acute Otitis Media during the Pneumococcal Conjugate Vaccine Era, 2006-2023
肺炎球菌結合型ワクチン時代における単純性・複雑性急性中耳炎の18年間縦断研究(2006-2023)
Fuji N, Salamone FN, Kaur R, Bajorski P, Gonzalez E, Wang L, Ali M, Miller A, Grant LR, Arguedas A, Pichichero M.
J Infect Dis. 2025 Mar 20. doi: 10.1093/infdis/jiaf154.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40112171/
背景:
我々は単純性急性中耳炎(uAOM)と複雑性急性中耳炎(cAOM)の小児における人口統計学的・危険因子、中耳貯留液(MEF)の病原体、肺炎球菌血清型分布、細菌の抗生物質非感受性について3つの期間で分析した:2006-2009年(PCV7時代)、2010-2014年(PCV13早期)、2015-2023年(PCV13後期)。

研究デザイン:
1,537人の小児が18年間にわたり登録され、6〜36ヶ月齢まで前向きに追跡された。AOMと診断された際には鼓膜穿刺を実施してMEFを採取し培養した。電子カルテを分析してuAOMとcAOMのエピソードを特定した。

結果:
人口統計学的データの分析から、男性、家族歴、保育所通園はuAOMと比較してcAOM発症のオッズを上昇させることが示された。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はcAOMでは発生確率が低く、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は発生確率が高かった。S. pneumoniaeによるAOMはPCV13早期およびPCV13後期に有意に減少した。この減少はPCV13株、特に19A血清型によるcAOMの減少によるものであった。S. pneumoniaeのペニシリン非感受性はcAOMと関連しており、PCV13早期に減少した。

結論:
uAOMと比較したcAOM発症の危険因子は類似している。PCV13はS. pneumoniaeに関連するcAOMとペニシリン非感受性を有意に減少させ、その効果は主に19A血清型の症例減少によるものであった。H. influenzaeはcAOMの主要な原因菌であり続けた。PCV13後期には非PCV13 S. pneumoniae血清型が出現したものの、S. pneumoniaeによるcAOMの低レベルは維持された。