注目論文:免疫抑制患者におけるSARS-CoV-2スパイク抗体と感染・入院リスクの関連

呼吸器内科
免疫抑制患者のCOVID-19感染予防は重要な課題です。本研究では、固形臓器移植患者、自己免疫性リウマチ性疾患患者、リンパ系悪性腫瘍患者を対象に、スパイクタンパク抗体の有無と感染・入院リスクの関連を検討しています。抗体陽性は感染リスクを30-40%、入院リスクを60%程度低減させることが示され、抗体検査による個別化された予防戦略の可能性が示唆されました。
Impact of SARS-CoV-2 spike antibody positivity on infection and hospitalisation rates in immunosuppressed populations during the omicron period: the MELODY study
オミクロン期における免疫抑制患者集団のSARS-CoV-2スパイク抗体陽性が感染率と入院率に与える影響:MELODY研究
Mumford L, Hogg R, Taylor A, Lanyon P, Bythell M, McPhail S, Chilcot J, Powter G, Cooke GS, Ward H, Thomas H, McAdoo SP, Lightstone L, Lim SH, Pettigrew GJ, Pearce FA, Willicombe M.
Lancet. 2025 Jan 25;405(10475):314-328.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39863371/
背景:
英国では、免疫脆弱者に対して半年ごとのCOVID-19追加ワクチン接種が推奨されています。本研究では、免疫抑制患者において3回以上のワクチン接種後の抗SARS-CoV-2スパイクタンパクIgG抗体(抗S抗体)の有無と、感染リスクおよび重症度との関連を集団レベルで検討しました。

研究デザイン:
英国の全国疾病登録を用いた前向きコホート研究で、固形臓器移植(SOT)、希少自己免疫性リウマチ性疾患(RAIRD)、リンパ系悪性腫瘍の患者を対象としました。全参加者に対して側流免疫測定法による抗S抗体検査を実施し、社会人口統計学的特徴と臨床特性に関する質問票調査を行い、イングランドの国民保健サービスのリンクデータを用いて6ヶ月間追跡しました。

結果:
2021年12月7日から2022年6月26日の間に21,575名が登録されました。抗S抗体は、SOT患者の77.0%(6,519/8,466名)、RAIRD患者の85.9%(5,594/6,516名)、リンパ系悪性腫瘍患者の79.3%(5,227/6,593名)で検出されました。COVID-19感染は3,907名(18.5%)で記録され、556名が入院を要し、17名が感染後28日以内に死亡しました。調整後の解析では、抗S抗体陽性は感染率の低下と独立して関連し、発生率比(IRR)はSOTコホートで0.69(95%信頼区間: 0.65-0.73)、RAIRDコホートで0.57(0.49-0.67)、リンパ系悪性腫瘍コホートで0.62(0.54-0.71)でした。入院に関しても、抗S抗体陽性は発生率の低下と関連し、IRRはSOTコホートで0.40(0.35-0.46)、RAIRDコホートで0.32(0.22-0.46)、リンパ系悪性腫瘍コホートで0.41(0.29-0.58)でした。免疫抑制患者全体がCOVID-19予防戦略への継続的なアクセスを必要とします。大規模に実施可能な抗S抗体反応の評価により、最もリスクの高い免疫抑制患者を特定し、予防アプローチをさらに個別化する手段を提供できる可能性があります。