注目論文:吸入ステロイドの用量と有害事象の頻度に関する関連性
呼吸器内科
吸入ステロイド(ICS)の中等度以上の用量が心血管イベントや肺塞栓症、肺炎のリスクと関連することが報告されました。ICSは喘息治療の要ですが、今回の研究により、特に中等度以上の用量での慎重な使用が求められることが示唆されています。ガイドラインに基づき、最小限の有効用量での治療が重要と考えられます。
Association of Dose of Inhaled Corticosteroids and Frequency of Adverse Events
吸入ステロイドの用量と有害事象の頻度に関する関連性
Bloom CI, Yang F, Hubbard R, Majeed A, Wedzicha JA.
Am J Respir Crit Care Med. 2024 Aug 1.
PMID: 39088770
https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.202402-0368OC
吸入ステロイドの用量と有害事象の頻度に関する関連性
Bloom CI, Yang F, Hubbard R, Majeed A, Wedzicha JA.
Am J Respir Crit Care Med. 2024 Aug 1.
PMID: 39088770
背景:
吸入ステロイド(ICS)は喘息治療の中心的薬剤であり、患者の罹患率や死亡率を大幅に改善します。経口ステロイドの副作用については広く知られていますが、ICSの影響については十分に解明されていません。
研究デザイン:
本研究は、英国の2つの全国規模データセット(CPRD AurumとCPRD GOLD)を使用し、成人の喘息患者を対象に行われた観察研究です。ICSの投与を受けた患者を対象とし、12ヶ月間にわたり主要な有害心血管イベント(MACE)、不整脈、肺塞栓症(PE)、および肺炎の発生を追跡しました。主要な解析では、stabilized inverse probability treatment weighting(sIPTW)を用いて、ICSを投与された患者とされていない患者の間の交絡因子を調整しました。副次解析として、ネステッドケースコントロール研究および自己対照症例シリーズを実施し、ICSの用量をカテゴリ変数と連続変数の両方で扱いました。
結果:
主なコホート研究では、162,202人の患者から中等度(1日あたり201-599mcg)以上のICS用量で全てのアウトカムに関連が認められました(MACE: HR 2.63, 95%CI 1.66-4.15、不整脈: HR 2.21, 95%CI 1.60-3.04、PE: HR 2.10, 95%CI 1.37-3.22、肺炎: HR 2.25, 95%CI 1.77-2.85)。600mcg以上ではさらにリスクが増加しました(MACE: HR 4.63, 95%CI 2.62-8.17、不整脈: HR 2.91, 95%CI 1.72-4.91、PE: HR 3.32, 95%CI 1.69-6.50、肺炎: HR 4.09, 95%CI 2.98-5.60)。低用量ICSではこれらのリスクとの関連は認められませんでした。副次解析も同様の結果を示しました。中等度ICS(201-599mcg)の12ヶ月間のNumber Needed to Harm (NNH)は、MACE=473、不整脈=567、PE=1221、肺炎=230でした。600mcg以上のICSでは、MACE=224、不整脈=396、PE=577、肺炎=93でした。短期間の低用量ICS使用は有害事象とは関連しませんでしたが、中等度以上の用量では心血管イベント、肺塞栓症、および肺炎のリスクが増加することが示されました。ただし、その頻度は低いため、リスク評価を慎重に行いながら最小限の効果的な用量を使用することが臨床的に重要です。