キアリ奇形に伴う脊髄空洞症

1.キアリ奇形および脊髄空洞症とは

概念および原因
 脊髄空洞症とは、脊髄内に空洞(水たまり)を形成する慢性進行性の疾患で、1)キアリ奇形(小脳の一部が脊柱管内に落ち込んでしまっている状態) 2)脊髄腫瘍 3)脳底部および脊髄くも膜炎 4)脊髄外傷 5)脊髄髄膜瘤 6)その他などの原因が知られています。キアリ1型奇形に伴うものが最も多く、空洞症の原因の約半数を占めています。まれな疾患なため他の病気と誤診されることも多く、かなり病状が進行して初めて正しい診断にたどり着いたということも少なくありませんでした。近年MRIの普及により診断が容易になり、病状の軽いうちに治療を受けることができるようになってきました。

2.脊髄空洞症はどのような症状がありますか?

初発症状:腕から手にかけての痛みやしびれなどの不快感で発症する事が多く、せき込んだ時やトイレでいきんだ時など、腹圧がかかる動作に伴う頭痛も特徴の一つとされています。小児期に発症した場合脊椎側弯症を合併する症例が多く、学校の検診で側弯症を指摘され、その精査中に発見されることも少なくありません。

神経症状知覚鈍麻および筋力低下が主な症状ですが、これらの症状は数年〜十数年かけてゆっくり進行します。痛みや温度に対する感覚(温・痛覚)は発症初期より障害されます。このため火傷や怪我をすることが多くなります。病状が進行すると、典型的には腕から手にかけて筋力が低下し、筋肉が萎縮してきます。最終的には、巧緻運動障害(ボタンが留めにくい・箸が使えない・文字が書けない)、筋肉の萎縮を伴う筋力低下、上肢に強いしびれや痛み歩行障害などのため、日常生活が制限されるようになります。発汗障害排尿障害など自律神経症状を伴うこともあります。

 小脳扁桃の下垂の強い患者さまでは、めまい・誤嚥・嗄声・小脳失調など、脳幹や小脳の症状が徐々に進行していきます。

3.治療法にはどのようなものがありますか?

手術適応および手術目的
 現在でも、手術療法が唯一の治療法です。脊髄空洞症に伴う症状があり、MRI等の画像診断で空洞が確認された場合には手術をお勧めしています。
空洞症に対する手術はあくまでも症状の進行を予防するものであり、病状が進行してから手術を行っても、運動麻痺や知覚障害の回復はあまり期待できません。脊髄空洞症に伴う脊柱側弯症も、適切な空洞症の治療により側弯の進行を予防するものと考えています。この場合も、進行した側弯症を改善する効果は期待できません。
 早期に診断・治療を受けることが重要です。

 手術手技は1)空洞短絡術(シャント手術)と、2)大後頭孔拡大術の2つに分けられます。空洞短絡術は脊髄空洞内にチューブを挿入し、空洞内にたまった水をドレナージする方法です。人工のチューブを用いるため、チューブがつまったり抜け落ちたりすることがあり、縮小した空洞が再増大する可能性があります。

 キアリ奇形では、本来頭蓋内に収まっているはずの小脳の一部が、大後頭孔を経て脊柱管内に下垂しているため、脳脊髄液の交通が妨げられ、空洞が形成されると考えられています。このため私たちはキアリ奇形に対する根本的な治療である、「大後頭孔拡大術」を行っています。これは1)下垂した小脳により妨げられた、大後頭孔部における脳脊髄液の流れを改善することを目的としたもので、 2)術後合併症の原因である脳幹部に対する操作は行いません。減圧がうまくいくと、手術中に下垂した小脳が挙上するのが観察され、空洞は術後3月ほどで縮小してきます。

4.大後頭孔拡大術について

 下垂した小脳扁桃による脳幹部への圧迫を除去し、髄液が大後頭孔介して頭蓋内と脊柱管内を自由に行き来できるようにするのを目的とします。十分な減圧を得るために、大後頭孔の減圧に加えて、上位頚椎の椎弓切除術/椎弓形成術およびGore-Tex®を用いた硬膜補填術を行います。椎弓切除術/椎弓形成術の範囲は、MRIによる小脳扁桃の下垂の程度や延髄の前方からの圧迫の程度を参考に決定します。

手術方法
(1)体位:腹臥位で手術を行います。頭部はスリーピンを用いて固定します。
(2)皮膚・軟部組織の切開:外後頭隆起約1cm上から第5頚椎に至るT字型の皮膚切開をします。
(3)大後頭孔拡大術:大後頭孔より外後頭隆起までの後頭骨の下約1/2を切除し、大後頭孔を外側に削除します。キアリ奇形の患者さまでは、大後頭孔骨縁が硬膜に食い込んでいるため、high speed drillを用いて大後頭孔骨縁を慎重に削除します。続いて第1頚椎の椎弓切除を行います。小脳扁桃下垂が第2頚椎以下までおよんでいるときには、第2頚椎の椎弓形成術が必要なことがあります。
(4)硬膜切開・補填:硬膜はY字状に切開します。Gore-Tex®を用いて硬膜を補填します。縫合した針穴から脳脊髄液が漏れないよう、フィブリン糊を用いて補強します。
(5)閉創:筋膜・皮膚を縫合して手術を終了します。

5.術後の注意事項

 術翌日からスケジュールに従って徐々にベッドをあげます。平均術後2週間で退院します。退院後も2週間程度の自宅療養を行い、退院後の生活に慣れて下さい。術後1月で通勤・通学を開始します。その後は日常生活に制限はありませんが、格闘技や頸に負担がかかるスポーツは控えてください。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療