気管支喘息発作の対応

(2014年10月18日更新 亀田総合病院 呼吸器内科)

はじめに


気管支喘息は、臨床的には繰り返し起こる咳、喘鳴、呼吸困難、生理学的には可逆性の気道狭窄と気道過敏性の亢進が特徴的である。本稿では、救急外来で遭遇する気管支喘息発作の対応についてまとめた。

気管支喘息発作の診断

救急外来を受診する気管支喘息発作のほとんどは、1:急性発症の喘鳴と呼吸困難を認め、2:喘息の既往があるか治療中であり、診断は難しくはない。

ただし、高齢者の場合は、COPD増悪や心不全との鑑別が重要である。

1 COPD増悪との鑑別

喫煙歴(20 pack years以上)、CTにおける肺気腫の存在、高齢での発症では、COPDが考慮される。迅速性はないが、喀痰細胞診を提出しておくと、結果判明後に好中球性炎症が確認されればCOPDを支持する根拠となる。しかし、COPDと喘息の合併例(オーバーラップ症候群)も存在するため、判断が難しい場合は、呼吸器内科に相談するのが望ましい。

2 心不全との鑑別

体重増加や下腿浮腫、胸部画像検査で胸水や肺門優位の浸潤影を認めれば、心不全を考慮する。心エコーでEFが正常でも、拡張障害による心不全は否定できない。実臨床では、喘息との鑑別が困難な場合もあり、その際は、喘息発作と心不全の両者に対して、利尿剤とステロイドで同時に治療せざるを得ない。

検査

血液検査:血液ガスで2型呼吸不全の有無を評価。白血球分画で好酸球の上昇など。
胸部レントゲン:肺の過膨脹所見(肋間の開大、横隔膜平定化など)、肺炎など他疾患の除外。

発作時の問診事項 [2]

・発症の時間と増悪の原因。
・服薬状況、最後に使用した薬剤とその時間およびステロイド薬の使用。
・これまでの喘息による入院の有無と救急外来の受診状況
・喘息による気管挿管の既往
・アスピリン喘息
・薬物アレルギーの有無

発作の重症度判定 ([2]より改変)

臨床症状とSpO2で判定するのが迅速。

●臨床症状での判定

 小発作:苦しいが横になれる
 中発作:苦しくて横になれない
 大発作:歩けない、話せない
 重篤な発作:意識がない、呼吸がない

●SpO2での判定

 SpO2≧96%は小発作
 91<SpO2≦95は中発作
 SpO2≦90%は大発作
 SpO2≦90以下でチアノーゼ・意識障害・呼吸減弱を伴うものは重篤。

治療

・気道閉塞をできるだけすみやかに改善するのが目的。

1:酸素投与

PaO2 80mmHg前後、SpO2 95%前後を目標
*PaCO2が高い時に、あわてて酸素吸入量を下げないこと(高炭酸ガスよりも低酸素が生命には悪影響、慢性2型呼吸不全の増悪ではないので、酸素流量を下げることは有害)

2:吸入β2刺激薬投与

べネトリン吸入液 0.3-0.5ml+生理食塩水 2ml 20分毎に最大3回まで投与

3:べネトリン吸入2回行っても効果不十分の場合は、ステロイド全身投与行う。大発作、重篤な発作では初めからステロイド投与。

ソルメドロール(コハク酸メチルプレドニゾロン)40mg-125mg+生食50ml 点滴静注

*アスピリン喘息の患者、鼻症状(副鼻腔炎、鼻茸)があり、NSAIDSで発作など、アスピリン喘息が疑われる人。
リンデロン(リン酸ベタメサゾン) 8mg+生食50ml 点滴静注

4:ステロイド不応例にはボスミン投与

ボスミン 0.3mg 皮下注
・バイタルサインのモニタリング下で行う。
・15-20分毎に反復投与する。

*アスピリン喘息(NSAIDS過敏喘息)

・成人喘息患者の5-10%を占め[2]、NSAIDS投与により重篤な発作を来す。

・アスピリン喘息の患者のうちで、NSAIDSによる発作の既往を有する患者は約6割しかおらず、既往歴のみで判断することはできない[1]。鼻症状(慢性鼻炎、慢性副鼻腔炎、嗅覚低下、鼻茸)を合併することが多く、これらの所見は診断の手掛かりになる。

*キサンチン製剤(テオフィリン)の位置づけ。

・副作用が発現しやすいため、基本的に喘息発作でルーチンでは投与しない。

・吸入β2刺激薬、ステロイドを投与しても、効果が乏しく、ボスミン投与や人工呼吸管理も検討されるくらい差し迫った状況下で、当科では、キサンチン製剤の投与を検討するようにしている。

ネオフィリン(Aminophyline hydrate)6mg/kgを5%ブドウ糖250mlで希釈し、1/2量を15分で、残りを45分かけて点滴静注

入院の適応

1:治療を行っても酸素投与が必要な酸素化障害がある。
2:救急外来での治療に対する反応がない。
3:重篤な発作
4:重篤な発作(気管挿管)を過去に起こした既往のある患者が発作を起こした時。

気管挿管の適応

・明らかな呼吸筋疲弊、増悪する高PaCO2血症(PaCO2>60mmHg)
・増悪する呼吸性アシドーシス(pH<7.25)
・酸素を最大限投与してもPaO2が50Torr未満
・意識障害、心停止・呼吸停止。

参考文献

1.青島正大. 呼吸器診療 step up マニュアル. 羊土社. 2007.
2.「喘息予防・管理ガイドライン2012」作成委員. 喘息予防・管理ガイドライン2012. 協和企画. 2012.

* 注意
亀田総合病院、呼吸器内科で行っている診療の概要を示したものです。実際の診断・治療の判断は主治医が責任を持って行って下さい。

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患