血胸の診断と治療

概念

血胸とは、胸腔内に血液が貯留する病的状態である。

・血胸の原因としては胸部外傷が多い。内科疾患としては、肺梗塞や大動脈瘤破裂によるもの、癒着のある気胸が再発したときに血気胸を呈することがある。まれに医原性の血胸も認める。
(Respir Med. 2010;104(11):1583-1587.)

原因

胸部外傷に続発する外傷性血胸(traumatic hemothorax)、医学的処置の合併症として起こる医原性血胸(iatrogenic hemothorax)、様々な基礎疾患によって起こる自然血胸(spontaneous hemothorax)の3つに分類される。
(Respir Med. 2010;104(11):1583-1587.)

外傷性血胸

・血胸で頻度が最も高い。自動車事故などの鈍的外傷に続発することが多いが、刃物や銃器による穿通性外傷もある。鈍的外傷の37%に血胸が見られたと報告されている。
(Ann surg. 1987:206:200-203)

・胸壁血管、肋間動脈、内胸動脈、肺実質、心・大血管、横隔膜などの損傷が原因である。外傷性血胸と同時に気胸の合併も多い。

医原性血胸

・頚部や鎖骨下のカテーテル挿入時に多い。ほかには、肺や胸膜の生検後、スワンガンツカテーテル時の二次的な肺動脈の破裂など。

自然血胸

・自然気胸に合併するものを自然血気胸という。ブラの破綻により自然気胸が起こる際に、胸腔内の異常血管が破綻して発症する。自然気胸に血胸が合併する頻度は2.0-7.3%と報告されている。
(Ann Thorac Surg. 2005;80(5):1859-1863.)

・他には、悪性腫瘍の浸潤や二次的な動脈の形成異常、胸膜転移、血管の異常(肺動静脈奇形、大動脈解離)、凝固異常(薬剤や血友病)、子宮内膜症など様々な基礎疾患によるものが報告されている。

症状

・医原性血胸や自然血胸は無症状である場合もある。肺の拡張不良を伴うと、呼吸困難、呼吸不全、気管変位などを伴う。大量出血を伴うと血圧低下によりショックを呈する。
(Thorac Surg Clin. 2013;23(1):89-vii.)

身体所見だけで血胸の除外は難しい。
(Eur J Trauma Emerg Surg 2015 Dec;41(6):647)

診断

胸部や胸腹部の鈍的外傷あるいは穿通性外傷では血胸を考慮する。また、最近の胸部処置、血胸を起こしうる基礎疾患があり、血胸に合致する症状(呼吸困難、血行動態の不安定、呼吸音減弱、低酸素血症)があれば、血胸を疑う。
(Thorac Surg Clin. 2013;23(1):89-vii.)

・鑑別診断は、他の胸水貯留をきたす疾患である。頻度の高い癌性胸膜炎や感染性胸膜炎などに留意する。外傷や手術のあとであれば、乳び胸も鑑別に挙がる。

・血胸を疑ったら胸部X線を行う。CP angleの鈍化、中等量の血胸では、患側横隔膜陰影が消失する。大量血胸であれば、縦隔の変異などを認める。胸部CTでは、CT値(Hounsfield unit:HU)を血胸と他の胸水の鑑別に用いることができる(血液の場合35-70 HU)。

・胸腔穿刺で新鮮血に近い血液を証明する。胸水のヘマトクリット値が末梢血の50%以上である場合、血胸の確定診断となる。肉眼的に血性胸水でも、ヘマトクリット値が末梢血の数%以下であることはしばしば経験するため、ヘマトクリット値を確認することは重要である。
(British Thoracic Society (BTS) 2010 guideline on pleural disease)

治療

・血液が少量の場合には、保存的に経過を見る。

外傷性血胸では胸腔ドレナージを考慮する。血行動態不安定、呼吸不全、気管変位、重篤な穿通性外傷の場合は、即座に緊急ドレナージを行う。

非外傷性血胸でも中等度(約500ml)以上の出血がある場合は適応となる。最初の排液量が1500ml以上なら血管損傷が疑われる。
(Masayuki Hanaoka: IX胸膜疾患 血胸. 呼吸器症候群 第2版 p374-376 日本臨牀社 2009年大阪)

・以下の状況では開胸止血術を考慮する。
大量血胸(ショックを呈するもの、ドレナージチューブ挿入時に1000ml-1500ml以上の出血があるもの、時間 100-200mlの出血が24時間以上持続する)
24時間で1.5L以上の血液がドレナージされる。
(J Trauma 2011 Feb;70(2):510)

胸腔ドレナージをしても、凝血槐が残存している場合は二本目のドレナージチューブを留置するよりも、早期のVATS (Video-assisted thoracoscopic surgery)が推奨される。感染や開胸となるリスクを減らすために、入院後3-7日以内に行うのが望ましい。
(J Trauma 2011 Feb;70(2):510)

予後

他に重篤な合併症がなければ予後は比較的良好である。大動脈瘤破裂、外傷や肺血管奇形などの関連する場合は、生命の危険を伴うことが多い。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患