vol.68 緩和ケアが必要な人への緩和ケア供給率は4割

(NEJM Catalyst Insights Council Surveyより)

私たちは、緩和ケアサービスを必要する人の何割の人に実際に緩和ケアが供給されているのか、という疑問を持ちます。米国のNEJM関連の調査部会が実施したアンケートでは、その供給率は約4割と半分にも満たないとの厳しい現状を示す結果でした。米国では、がん、非がんを問わずすべての死に至る病を対象にホスピスケアがセーフティーネットとして受給可能です。しかしながら、ホスピスケアではなく、緩和ケアサービスの受給をすべての必要とする人に行き渡らせるとなると、事はそう簡単ではありません。当然ながら、緩和ケアでは積極的治療と併行して行う診療も含みますから、全米の大多数の病院に緩和ケアチームが存在するまでに緩和ケアが普及した米国でも、その供給率は4割に留まる結果でした。また、病院管理者らは、"病院内の横断的緩和ケアサービスが普及すれば、医療の質が様々な側面で改善するだろう"と考えていることが示されました。米国の病院経営者の緩和ケアへの非常に高い期待が伺えます。日本はどうでしょうか?日本の病院経営者の皆さんは、残念ですが、横断的緩和ケアサービスの普及が、医療の質改善を後押しするとの認識をここでの結果ほどは持っておられないように思います。ここで、私たち日本の緩和ケア専門家は横断的緩和ケアを充実させることが病院全体の様々な質改善につながることを地道に様々な形で示していく必要があります。日本ではがん患者の緩和ケアについては、必要性が十分理解されるようになり、現在まで様々な取組みが国策としてなされてきました。一方、がん以外の緩和ケアや、医療の質改善の手段として緩和ケアアプローチを活用する視点はほとんど議論されていないと私自身は認識しています。

急性期病院の現場では、痛みや苦痛で苦しむ患者さんとご家族をどのようにサポートすればよいか試行錯誤が日々続きます。各施設が、それぞれの特徴と強みを生かし、横断的な痛みや苦痛の緩和への取り組みを行い、それが医療の質改善につながることを示すことが何より重要です。それにより、今後、日本でもすべての病院に感染チームや栄養チーム(NST)が普及してきたように緩和ケアチームが作られ、疾患を区別しない横断的な緩和ケアが普及することを目指して、活動して参ります。

(関根)

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このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和