プライマリケアにおける心血管疾患患者の併存疾患について:定期外来受診データベースに基づくコホート研究(2019年第5回RJC)

ジャーナルクラブ 第5回
2019/06/24
高橋亮太

1 タイトル

「プライマリケアにおける心血管疾患患者の併存疾患について:定期外来受診データベースに基づくコホート研究」
Comorbidity in patients with cardiovascular disease in primary care: a cohort study with routine healthcare data.
Josefien Buddeke, Michiel L Bots, Ineke van Dis, Frank LJ Visseren, Monika Hollander, François G Schellevis and Ilonca Vaartjes.
British Journal of General Practice 2019; 69 (683): e398-e406. DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X702725
カテゴリー research journal club
キーワード 
cardio vascular diseases 心血管疾患 
chronic disease 慢性疾患
epidemiology 疫学
general practice 総合診療
primary health care プライマリヘルスケア

2 背景・目的・仮説

●背景
心血管疾患は世界における最大の死因の一つである。
心血管リスクに対する1次予防の結果、心血管イベントの発生は減少傾向にあり、初回イベント発生年齢は高齢化し、また、発生後も長期生存する症例が増えている。
結果的に、心血管疾患を罹患した患者の寿命が延長し、併存疾患を罹患するケースが増えている。これが、多疾患併存に関するリサーチに関心が高まっている理由である。
基準となる疾患(index disease)に併存する慢性疾患が1つ以上ある状態を多疾患併存(comorbidity)と呼ぶ。
多疾患併存(comorbidity)は、身体機能の悪化、QOL低下、死亡率上昇の影響がある。
プライマリケアにとって複数の慢性疾患を抱える患者への対応はヘルスケアシステムにおける挑戦である。それは、ヘルスケアシステムが単一疾患をもとにデザインされているものである。
近年では、comorbidityは、特別なことではなく一般的なことである。健康アウトカムを改善し、コストを削減するためにどのような対策、ガイドラインの改善が出来るかの関心が高まっている。
その最初のステップとして、心血管イベントの併存疾患の有病率を分析することが、将来的なリサーチに必要なコンテクスト情報を提供することになる
現状では、併存疾患の組み合わせに関するエビデンスでは十分ではない。それに加えて、多くの先行研究では、疾患のペアであったり、2つの併存疾患の組み合わせしか評価していないものが多い。

●目的
そこで、今回の研究では、心血管疾患患者に併存する慢性疾患の組み合わせの有病率と関連性について、性別、年齢別に記述することとした。
本研究およびこれまでの先行研究の結果から、併存疾患の組み合わせの中で、どの組み合わせがより有効なのかを明らかにし、優先順位付けすることにつながると考えられる。
これにより複数の慢性疾患を抱える患者ケアにおいて、どのよう医療資源利用をどのように活用すべきかの参考になると思われる。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 横断研究
●研究参加者のデータ
オランダユトレヒト州(オランダ第4の都市) 2015−2016年
Julius General Practitioners' Network の患者データ 電子カルテ記録
ユトレヒトの全53一般診療所
18歳以上 226,670人分
オランダでは、すべての成人患者(介護施設に入所する高齢者を除く)が、GP登録されている。GPがゲートキーパーとして病院受診および専門医受診を調整している。

●分析方法
有病率と組み合わせを性別、年齢群別に記述
心血管疾患患者を4つのグループに分類
・heart failure 心不全
・peripheral arterial disease (PAD) 末梢動脈疾患(PAD)
・coronary heart disease (CHD) 冠状動脈疾患(虚血性心疾患)
・stroke 脳血管障害
病名はICPC(International Classification of Primary Care)に基づき電子カルテに医師が登録したデータを採用した。
慢性疾患リストは過去の研究(文献12)を参照し、20個の慢性疾患から抽出した。
また、心血管疾患と慢性疾患の組み合わせが、心血管疾患を持たない患者と比べて統計学的に有意かどうかを検討した。

4 結果

1)表1 研究参加者の特性
全体で226 670人の患者が参加した
そのうち、15 787人が心血管疾患に罹患していた。
> 9487 人が冠状動脈疾患 3290 人が心不全 3261 人が脳血管障害 2846 人がPADであった。

2)図1 Cluster diagram
4つの心血管疾患に合併する慢性疾患(心血管疾患および非心血管疾患)
一つの丸の大きさは有病率の高さを示す
丸の中の数字:有病率 Odds Ratio 95%CI


3)まとめ
*心血管疾患以外の併存疾患 トップ5
 > 視力低下、糖尿病、腰痛・頚部痛、変形性関節症、COPD、癌
 > これらは患者の性別、年齢群別に限らずみられた傾向であった

*これらのうち、統計学的に有意に心血管疾患と合併するもの
 > 視力低下、糖尿病、COPD

4)年齢群別、性別の結果
・若年者 糖尿病、COPDが多い うつも多い
・高齢者 変形性関節症、視力低下、癌が多い
・女性  筋骨格系疾患が多い

5 考察

1) 研究結果のまとめ
心血管疾患患者において併存疾患が非常に多いことが明らかとなった。
それは、高齢者だけでなく、若い年齢層においてもみられた。

2) 長所と限界
・長所 サンプルサイズが大きい 一般人口を反映
・短所 プライマリケアではうつは診断が少なく、過小評価されている可能性(認知症も同様) 社会経済的地位(SES)の情報は入らない

3) 先行研究との比較
・心不全と併存疾患する割合の高さ 本研究と同様
・心血管疾患を含めた3つの疾患の組み合わせ 今までに先行研究1つだけ
・併存疾患トップ5(視力低下、糖尿病、腰痛・頚部痛、変形性関節症、COPD、癌)は、心血管疾患とリスクファクターが同じことが影響しているのではないか
・視力低下 喫煙が影響しているという仮説 まだ明らかではない経路の存在

4) 今後の研究と実践への提言
・プライマリケア医の処方ポリシーへの提言
・優先順位付け
・どのようにcomorbidity患者を管理ケアしていくか
・RCTは限定的(コクランレビュー 2016年より)
・NICEガイドライン

6 日本のプライマリケアへの意味

・オランダ 患者データがICPCで登録されている
 プライマリケア研究を現場の医療機関で実践する環境が整っている
 日本でも一部医療機関で先駆的に実施されている
 > 今後のリサーチへの展開に期待

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学