共に、歩むこと

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継続的な医療、ケア

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事例
初期研修時代から長く関わった。人として尊敬し、親しみを持っていた。患者が実は大病を患っていることを知り、関わる中で、患者と共に涙し、一緒に共有する経験をした。指導医から、「家庭医として関わりを続けたからこそ、感じるところがあったのではないか」と言われ、心の変化に着目することにした。

70代男性。不眠症、耐糖能異常、脂質異常症などで通院中の方。妻の通院介助も、本人の運転が必要であり、家での役割もあった。
出身地、生い立ち、仕事への信念、地域への関わりなど、長い経過の中で、コンテクストに触れていった。この人がこの人である所以が伝わってきた。

心にしみるような言葉をたくさんかけてもらった。
「自分の幸せは 他人ではなく 自分でつくるもの」

あるとき、下肢掻痒感の相談があった。皮脂欠乏症として対症療法。その後、食欲低下あり、精査に。結果的には、膵がん、多発転移、閉塞性黄疸の診断に。他院に転院予定というのをカルテで発見し、診療担当医ではなかったが、救急へ駆けつけた。担当医として、告知を引き受けることに。
もともとACPでも告知希望だったので、改めて希望するか確認し、告知することになった。早期発見できなかった自責の念、動揺する中で、説明を行った。本人は、「やっと先生に会えた。よく知っている先生から説明を聞けてよかった。本当はもっと長く生きたい気持ちもあるが、今はこの地域でご縁があってくることができて、本当に幸せ者です。」と話された。

治療予定の病院に転院前に、化学療法導入後は、またこの病院に戻ってこられるのか心配、と吐露された。病室で、子供達と団欒する中、先生も輪に入るかと誘われた。特別な空間に混ぜてもらえたと感じた。
転院のとき、「先生、いってきます」と今後の継続性を感じさせる雰囲気でお見送りをした。

家庭医の特徴として「継続性」がある。
対人関係の継続性x 健康アウトカム、費用の研究もある(Saultz)。予防医学的介入が増え、入院頻度の減少に寄与することも示されている。

ケアの継続性には、対人関係、時間、地理的、専門分野にまたがる継続性がある。
継続性とは、時間をかけた相互作用であり、患者とその医師が協同して作り上げていくもの(Veale 1995)。
継続を実現し続けるために、「責任」が全ての重要な人間関係における鍵となる。
継続性は「癒し」であり、変化をもたらす力(行動変容など)をもつと感じられた(Takaoka, 2019)。

Next step
次の転記先が、自分の手の届かない場所になる可能性もあるが、その時にも関係性、継続性を意識したケアをすることができればと思っている。

ディスカッション
葛藤した点はなにか→ずっと関係性が続くと思っていたら、急にお別れを意識せざるを得ない状況になり、悲しくなった。
何度か受診をする中で、自分を慕って探してくれたが、対応できなかった歯がゆさがあった。ただ、関係ができている医師からの説明ができてよかったとは思う。
病状を知るだけの人でなく、コンテクストを知った上で関わる違いを感じた。
「家族だったらどう思う?」と上級医に聞かれることはあったが、家庭医という立場だと家族の視点も持った提案ができることに感動した。

岡田先生から
カルテのリストで名前をみたときに、カルテ内容をみても駆けつけたか?→誰かが告知しないといけないなら、自分からがよいと思った。
膵がんを疑って評価すべきかどうか、今後悩む可能性がある。「鮮明な記憶バイアス」。直近経験した衝撃的な事例で、自分のマネジメントが変わるかどうか。永遠の課題。
担当医にとっても、自分の患者が癌と診断されるのは、bad newsになる。自分のやった対応を正当化しようとしたり。そういう意味では、同じような辛い経験を乗り切る同志とも言える。
Continuityではなく、longitudinalityが継続性を説明するのにふさわしいことば。患者からも選ばれて、人間的なつながり、信頼としての医師患者関係が継続することが大事。Continuityは前提。Longitudinalityを経験し、実感し、腑に落ちるレベルで理解をするのは、疑似体験では補えない。「ずっとみる」ことでしか、経験はできない。短期間ではなかなか味わえないので、時間的なコストのかかる研修項目となる。だから、亀田家庭医の研修では、ローテ先であっても継続外来を重要視している。

参考文献:
Saultz, John W., and Jennifer Lochner. "Interpersonal continuity of care and care outcomes: a critical review." The Annals of Family Medicine 3.2 (2005): 159-166.

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学