ブリティッシュコロンビア州のプライマリケア医師における勤務場所以外および勤務時間外のケアの傾向について(2019年第1回RJC)

ジャーナルクラブ2019 第1回
2019/4/12
高橋亮太

1 タイトル

「ブリティッシュコロンビア州のプライマリケア医師における勤務場所以外および勤務時間外のケアの傾向について」
Trends in Providing Out-of-Office, Urgent After-Hours, and On-Call Care in British Columbia
Lindsay Hedden, M. Ruth Lavergne, Kimberlyn M. McGrail, Michael R. Law, Ivy L. Bourgeault, Rita McCracken, and Morris L. Barer
Ann Fam Med March/April 2019 17:116-124; doi:10.1370/afm.2366
カテゴリー research journal club
キーワード プライマリヘルスケア 医師 プライマリケア 勤務時間終了後のケア ブリティッシュコロンビア州 コホート研究

2 背景・目的・仮説

●背景
 代替手段としてのケアの提供(医療機関以外の場所、業務時間外の時間)は、プライマリケアにおける近接性と包括性の重要な要素である。高い質を保ち、患者中心のケアを行うためには、ヘルスケアシステムが通常の勤務時間外や通常の勤務場所以外におけるサービスを提供することが必要とされる。例えば、勤務時間終了後の外来診療が必要となった場合にプライマリケア医療者が対応できる場合には継続性を保つことができるのと、救急外来への受診を減らすことが可能となる。(ref 1-3)
 しかし、米国およびカナダではOECD加盟国の中でもっとも低い勤務時間後のアクセス対応率(米国35%、カナダ45%)である(ref 4-6)63%のカナダ人および51%の米国人が、救急外来に行くことなく勤務時間終了後のケアを受けることは難しいと報告している(ref 7)さらには、地域におけるフレイル患者増加により、病院や救急外来だけでなく、自宅および介護施設でのケアの重要性を指摘している(ref 8)
 どのような患者にこれらのサービスを提供すべきか、また、どうでないかが重要であるが、エビデンスは限られている。先行研究では、勤務場所以外におけるプライマリケア医師のケア提供が減少傾向にあると指摘されているが(ref 9-12)、これらの研究は全て横断研究の調査結果であった。これらの研究では、同じ追跡集団での時を超えた傾向や、地域差(地方部、都市部、大都市圏)による違いは検討されていない。
 ブリティッシュコロンビア州においては、オンコール対応や勤務場所以外での診療は義務付けられていない。しかし、ブリティッシュコロンビア州における医師の覚書?(the College of Physicians and Surgeons of BC (the physician licensing body in BC))では、プロフェッショナルスタンダードとして、「臨床医の倫理的、専門的、法的な義務として、彼らのケアにある全ての患者に対して適切な時間外医療を提供すべきである」と述べられている。(ref 13)(注:日本の医師法における応召義務のようなものと推測する)
●目的
 この縦断研究では、ブリティッシュコロンビア州のプライマリケア医師における勤務場所以外、勤務時間終了後、オンコール対応についてのトレンドと関連因子について分析した。さらに、これらの要素について地域差を検討した。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン コホート研究
●方法
 医師一人レベルでの報酬について、2006-2007年期から2011-2012年期までのブリティッシュコロンビア州のプライマリケア医師全員のデータを分析した。
 医療機関外でのケアおよび業務時間外での勤務への報酬額と、それに影響する医師要因、勤務環境、地域性などについてlongitudinal mixed-effects models.を用いて分析した。
(勤務背景として)カナダにおけるプライマリケア医師は典型的な個人事業主(small business operators)であり、出来高払い(fee-for-service)により報酬を受けている。全体の報酬は医師会とブリティッシュコロンビア州保健省との間で調整の上、決定されている。
出来高払い以外の報酬(給料など)は、全体における20%以内とされている。
医師は臨床的に自律性を持っており、組織や勤務場所を超えて働ける裁量を持っている。
本研究では、ブリティッシュコロンビア州保健省と医師会から提供を受けた縦断データを使用した。2006年4月1日〜2012年3月31日まで。
個別の医師の出来高払い報酬と紐付けされた医師支払いファイル(Medical Services Plan)を使用した。このデータと出来高払い以外の報酬データを紐付けした。
今回の研究では、調査期間の7年間のうち、少なくとも1年以上はプライマリケア医師として勤務して臨床的ケアを提供し、出来高払いを受けた医師を含めた。なお、100%出来高払い以外の報酬を受けていた医師は除外した。

*目的変数
1.勤務場所以外でのケア
 患者自宅、介護施設、救急外来、急性期病院、診断機関、メンタルヘルスセンター、地域施設(学校など)
2.勤務時間終了後のケアもしくはオンコール参加
 通常の勤務時間外のケアに支払われた報酬データを適用した
*説明変数
・医師要因(年齢、性別、研修を受けた場所、勤務している地域性(大都市圏、都市部、地方部)
・患者要因(女性割合、65歳以上割合、低いSES、重症疾患有無(Johns Hopkins' Aggregated Diagnostic Groupingsで評価)
*地域性の差 rural/ urban/ metropolitan
 (ref 25) Statistics Canada. CMA and CA: Detailed definition. 
 http://www.statcan.gc.ca/pub/92-195-x/2011001/geo/cma-rmr/def-eng.htm.
 カナダ国統計 CMAとCAという区別
 census metropolitan area (CMA)
 > 人口10万人以上 そのうち5万人は中心部に住む
 census agglomeration (CA)
 > 中心部に1万人以上
*統計解析
 カイ二乗検定 多変量解析 感度分析 統計ソフトSAS version 9.2

4 結果

*表1 研究対象者(医師)の属性
 全体で6,531人 少なくとも1年間は報酬を受けた医師
 38% 女性
 30% カナダ以外での研修
 平均年齢 51歳(2011-2012年期)
 16% 地方部での勤務
*勤務場所の記述
 85% なんらかのOOO visit(勤務場所以外でのケア)
 (56% 自宅 介護施設 56% など)

*勤務時間の記述
 64% 勤務時間終了後のケア
 42% オンコール参加
 > 地方部勤務の医師 勤務時間終了後のケアが多い(75%)
*図1 勤務場所以外のケア トレンド
 > 減少傾向にある
*図2 勤務時間外のケア トレンド
 > 減少傾向にある
*トレンドまとめ
医療機関外でのケアおよび業務時間外での勤務を担う医師割合は時期を経るごとに減少傾向がみられた。減少幅は長期療養施設への訪問が5%減少、勤務時間終了後の勤務が22%減少であった。

*表2 多変量解析
A) 勤務場所外のケア(全て)
B) 自宅訪問
C) 介護施設ケア
D) 救急外来
E) 病院外来
> それぞれを地域差で層別化して分析(model 1-3)

*表3 多変量解析
A) 勤務時間終了後
B) オンコール
> それぞれを地域差で層別化して分析(model 1-3)

*多変量解析まとめ
・女性医師、年齢が高い群の医師は医療機関外でのケアおよび業務時間外での勤務を提供するオッズが低い
・対象とする患者が女性が多い、65歳以上が多いなどの医師はオッズが高い
・対象とする患者がSESが低い医師はオッズが低い(inverse care lawの可能性?)
・地方で勤務する医師と比べて大都市圏で勤務する医師は医療機関外でのケアおよび業務時間外での勤務を提供するオッズが高い傾向にあった。

5 考察

1) 研究結果のまとめ
・勤務場所以外でのケア、勤務時間終了後のケアは2006年から2012年にかけて減少傾向にあった
・ケア減少の背景
 高齢者が自宅、介護施設へ移動した 金銭的なインセンティブが減少した
・女性医師と高齢医師(65歳以上)は勤務場所以外でのケアを提供する割合が低いという結果であった
・これらの結果は、将来的に近接性の低下につながりかねない状況である。特に、米国などの医師属性がシフトしている地域において。
・また、低いSES状態の患者を多く診療する地域の医師が、勤務場所以外でのケアもしくは勤務時間終了後のケアを担っている割合が低いという結果であった。
・この傾向は、低いSES状態の患者が、チームベースの診療所よりも出来高払い診療所でケアされている結果かもしれない。
・地域差による違いについて、地方部の方が勤務時間終了後のケア割合が高かった。
これは、現場における必要性、要望の両者の結果かもしれない。
・大都市圏ではホスピタリストが存在しているため、状況が異なっている可能性がある。
・この結果を解釈する際に注意すべき点として、個別の医師の診療内容は、様々な要因の影響を受けていること。本人の意向だけでなく、構造的な問題、システムの問題、地理的問題、組織のリソースの問題など様々な要素を考慮する必要がある。
・今後将来的に、それぞれの医師のどのような要素がこの勤務場所以外でのケア、勤務時間終了後のケアに影響しているのかを分析する研究が必要である。

2) 長所と限界
1.データ収集の限界として2011-2012年期のデータまでしか分析できなかったこと
2.勤務時間終了後ケアへの出来高払いデータは不完全であること
3.論文全体を通して、医療サービスの提供を報酬データから分析していること

3) 結論
ブリティッシュコロンビア州において、プライマリケア医師の提供する勤務場所外でのケア、勤務時間終了後のケアは減少傾向を認めた。この傾向は、カナダおよびその他の地域における、将来的にプライマリケアにおける近接性の課題として指摘された。

6 日本のプライマリケアへの意味

・日本でもカナダと同様の状況が予想される
 医師属性のシフト(女性医師増加、高齢化)
 地域性の変化(大都市圏と地方部での診療環境の変化など)
 > 参考に出来る部分は大きいと思われる

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学