医師のコミュニケーションスキルを多様な視点から評価するする(第8回RJC#2)

ジャーナルクラブ 第8回
2018/08/22
岡田唯男

1 タイトル

医師のコミュニケーションスキルを多様な視点から評価する
Jenni Burt, et al.
The Evaluation of Physicians' Communication Skills From Multiple Perspectives
doi: 10.1370/afm.2241Ann Fam Med July/August 2018 vol. 16 no. 4 330-337
http://www.annfammed.org/content/16/4/330
カテゴリー research journal club
キーワード 医師患者関係性 ヘルスケア調査 ヘルスケアの質 患者満足度 患者経験 医師患者コミュニケーション ヘルスケアの質測定

2 背景・目的・仮説

●背景
 コミュニケーションの質とアウトカムにリンクする(3−11)
 国際的に医師のコミュニケーションスキルの評価は医療の質改善活動の一環として標準的なものになってきている(12−14)
 英国医師は免許更新の条件として360度評価が必要(21)
 患者質問紙票の信頼性妥当性についての研究は多い(23−28)
 それにもかかわらず医師は患者質問紙票をどのぐらい信用するか、結果を利用するかなどについて疑念を抱いている(29−31)
 医師は自分自身を患者評価や同僚評価よりも低めに評価することが知られている(32−33)
 実際に医師の自己能力判断は患者評価とずれる(患者は好意的に評価するため)(34−37)
 自己評価と他者評価のズレの大きさは、最も能力の低い医師ほど顕著(医師に限らない)(34,38,39)
 これまでの患者質問紙票の信頼性妥当性についての研究は複数の診察のデータをまとめてに評価したものである(18,19)

●今回の研究
 医師の自己評価、患者評価、他者評価を個別の診療ごとに比較し乖離がどこから来ているか探ることが目的
1)コミュニケーションの標準基準を満たした診療とそうでない診療を区別する
2)患者経験(満足度)が高い診療とそうでない診療を区別する
ことはより重要である
 メインの研究(42)の一部として実施

3 方法 研究デザイン

●方法
 英国の家庭医診療所
●対象
1)1名以上の家庭医が最低週2日直接患者診療をしている
2)2009−2010の国勢GP患者調査によりコミュニケーションスコアが(患者属性(年齢、性別、人種、自己健康評価、剥奪レベルの指標で調整しても)平均よりも低い4分位にいる診療所
 コミュニケーションについての患者経験の悪いものと良いものの違いについての理解を深めるための研究の一部として実施(41)
 英国の患者調査ではコミュニケーションに関するスコアの94%が良いかとても良いの評価のため、意図的にスコアの低い診療所をピックアップした (どうやって同意をとった?)
 13の診療所が確保されるまでリクルートを継続(一部は以前の研究に参加していた(40))

●患者リクルート
 データ収集2012.8−2014.7
 各診療所から医師1−2名
 診療を録画するため、リサーチチームが診療所に滞在し、対象の医師の予約に来た成人患者に個別にパンフレットを渡し同意を取得

●患者評価と医師の自己評価
 患者は診療の直後に7項目の質問(table 1)と患者属性について回答
 医師も同じ7項目の質問を記載
 それぞれをNRS0−100に換算 4項目以上の有効回答がある場合 平均を算出して有効データとして採用

●訓練された評価者の他者評価
 客観評価に訓練され、経験を積んだ評価者(全員家庭医)が前もって抜粋された56の診療録画を評価
 抜粋基準はコミュニケーションの患者評価がなるべく幅広いものになるように(恣意性?)
 信頼性を上げるために、ひとつの診療録画を4人(!)の評価者が前記と同じ7項目評価表と、Global Consultation Rating Scale(44)を用いて評価 今回は7項目評価表を使用
4人の評価順序は乱数表で、4人の評価者の平均を使用

●統計解析
 相関係数を計算
 患者と医師評価の同一医師内相関を見るためにmixed linear regression with a random effect (intercept)を使用(医師によって、自己評価の甘い人と辛い人がいるため、同一の医師の中での患者と医師評価の相関の有無を評価)(まずは患者評価のみのa single fixed effectで、その後患者属性で調整)、その後医師属性を考慮して評価
 標準化回帰係数(Standardized regression coefficients)β を報告
 これは相関係数と基本同じ
 正規分布仮説に対する懸念から500サンプルについて医師ごとのクラスターに対しに実施

4 結果

●結果
 908の診療(45名の医師)
 167が対象外(小児など)
 残りのうち529が質問紙を記入(71.4%の回答率)
 うち26はデータ不足により除外 (最終的に503データ)
 Table2 患者属性

 外部評価者による評価のための抜粋された診療56のうち55がデータが利用可能
 4人の評価者間相関は強くSpeaman相関係数は0.54-0.67 (p<0.001)で信頼可能

●医師の自己評価と患者評価の相関
 Fig1 分布が異なる(医師の自己評価が低め)医師はほぼ左右対称、患者は偏っている(skewed)
 Fig2 相関(scatter plot) (医師は50未満にはほとんど評価しない、患者は偏っている) そして相関が見られない!
 table 3 相関なし

●医師、患者、評価者比較
 患者スコアの分布が二峰性なのは意図的にサンプリングしたから
 外部評価者の分布の幅は医師自身より広い
 Fig 3 それぞれの相関のscatter plot 医師と患者、医師と評価者は相関なし(P=0.91, 0.69)
 患者と評価者は相関(有意差ギリギリP= 0.42)

5 考察

●議論
 医師の自己評価は使えないのでは?
 外部評価者は患者視点(医師がやっても)
 患者評価は悪い評価が出づらい可能性(47)
 患者評価を他者評価で代用は可能かもしれない

●限界
 意図的なサンプリング
 直後の評価のため時間による制限(診療の合間)
 social desirability bias
 白人患者が多い

6 参考

●GP患者調査(GP patient survey)
 https://www.gp-patient.co.uk/Files/Questionnaire2018.pdf
 63問 
 YOUR LOCAL GP SERVICES 1−10
 MAKING AN APPOINTMENT 11−22
 YOUR LAST APPOINTMENT 23−30 ← ここにコミュニケーションの質問
 OVERALL EXPERIENCE 31
 YOUR HEALTH 32−43
 WHEN YOUR GP PRACTICE IS CLOSED 44−48
 NHS DENTISTRY 49−53
 SOME QUESTIONS ABOUT YOU 54−63

●Global Consultation Rating Scale (44)
 Calgary-Cambridgeモデルから作成
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK436536/bin/11-77-60-app1.pdf

●RAND Corporation

日本でもスケールが必要

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学