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家族志向型ケア

キーワード

高齢者、コミュニケーション、認知症


○アルツハイマー型認知症の70歳代女性と介護をする夫との症例。進行する物忘れで受診し、1年前より発表者の外来主治医となった。本人の認知機能低下が進んで行く中で、介護者の夫は「大丈夫」と繰り返し介護サービス調整などが進まず。 遠方で生活する長男と長女は、徐々に認知症が進行していく母と父の生活を心配しているが、それぞれ幼い子どもを抱えての生活があり、頻繁に訪問できてはいなかった。長男が診察に同席することで契約につながったケアマネージャーや、外来主治医も、進行する病状に対して夫婦の認識が伴っていないことを心配していたが、家族は遠方なため家族カンファレンスも開くことができない。また、Advance Care Planningについて、患者本人の意向が確認できるうちに、家族で話し合うように促しても「大丈夫」で話し合いが進まなかった。夫の健康面の不安もあり、何かすべきなのではないかと外来主治医が焦る一方で、患者は「大事な人だから最後まで忘れない」という夫と、楽しそうに外来受診を続けていた。

発表の後半は、関係者の対立構造(夫婦 VS 家族やケアマネ)における医師の立ち位置の問題、遠方家族に対するアプローチ、老年期の家族のライフサイクルのアプローチ、認知症高齢者のACPの進め方についての考察がなされた。

聴衆からは、夫の認知機能の評価が必要性の指摘があった。また、サービス担当者会議に出席することで、家族や主治医よりも普段から密に関わっている他職種から情報が得られること、実際に患者宅を訪問して生活を知ることから、患者と夫を取り巻く生活を把握する上で意義深いだろうとの意見もあった。遠方の家族は予想している以上に本人たちのことを知らないこともよくあり、訪問できないから余計に心配する可能性もあるため注意が必要との助言もあった。

家族志向型ケアにおけるコミュニケーションについても、家族同士の意見対立に医療者が加担するのではなく、家族メンバー内で話し合いがなされるように関わっていくことが大切との意見があった。また、発表者自身の感情も大切で、陰性感情を抱いているかどうか常にチェックするべきとの指摘がなされた。

参考文献:S.H.McDaniel(2012)『家族志向のプライマリ・ケア』(松下明訳) 丸善出版.

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学