敗血症の早期治療におけるアスコルビン酸、チアミン、グルココルチコイドを用いたmetabolic resuscitation: The ORANGES Trial

Journal Title
Iglesias J, Vassallo AV, Patel VV, Sullivan JB, Cavanaugh J, Elbaga Y. Outcomes of Metabolic Resuscitation Using Ascorbic Acid, Thiamine, and Glucocorticoids in the Early Treatment of Sepsis: The ORANGES Trial. Chest. 2020;158(1):164-173. doi:10.1016/j.chest.2020.02.049

論文の要約
<背景>
敗血症の院内死亡率は25-30%あり,公衆衛生上の大きな負担になっている。敗血症の治療は早期発見して適切な時期に迅速に抗菌薬・輸液・昇圧剤を投与するしかなく、原因を直接治療する方法はまだない。この状況の中、いくつかの研究からヒドロコルチゾン・ビタミンC・ビタミンB1を同時投与するHAT療法が有望視されている。後ろ向きの事前事後分析だが、Chest. 2017;151(6):1229-1238.では敗血症・敗血症ショックに対して死亡率が31.9%低下、昇圧剤使用期間が1/3倍という治療成績を示した。他にも同様のプロトコールで臨床試験が行われているが、その一つ、 JAMA. 2020;323(5):423-431.では昇圧剤非使用生存期間を有意に改善しなかった。本研究もHAT療法が臨床結果を改善するか評価するものである。

<方法>
2018年2月から2019年6月の間に米国の非教育病院2施設で行われた二重盲検化ランダム化比較試験である。対象の選択基準は、ICU入室の12時間以内に敗血症診療国際ガイドラインSSCG2016に基づいて敗血症・敗血症性ショックと一次診断され、3時間バンドルに従って治療された18歳以上である。緊急手術が必要な状態や一部の免疫不全、代謝性疾患、終末期疾患などは除外された。ブロックランダム化でプラセボ群とHAT療法群(ヒドロコルチゾン50mg q6h, ビタミンC 1500mg q6h, ビタミンB1 200mg q12hを経静脈投与)に患者は割り付けられた。期間は最長4日間とし、呼吸不全などの原因で通常治療としてコルチコステロイドを投与することはオープンラベルで許された。主要評価項目はHAT治療開始から昇圧剤終了までの時間と、初日・4日目のSOFAスコアの変化である。副次評価項目はICU死亡率、院内死亡率、輸液バランス、急性腎不全など、安全評価項目は血漿クレアチニン値、4日目の尿中シュウ酸塩などである。サンプルサイズは、Chest. 2017;151(6):1229-1238.と同等の効果を仮定し、αエラー5%、検出力80%と設定し、除外を想定して140人と算出された。統計手法は、主要評価項目のショック離脱時間にcox回帰分析、SOFAスコアにRepeated measures ANOVAを用いた。

<結果>
140人がランダム化され、3人が終末期疾患のため除外され、HAT群68人とプラセボ群69人に割り付けられた。合併症・感染源・重症度スコアなどの患者背景に有意差はなかったが、昇圧剤を使用した割合はHAT群で82%、プラセボ群で68%だった。感染源の内訳は呼吸器43%、尿路41%、原発性菌血症14%だった。主要評価項目:ショック離脱時間はHAT群 27+-22時間、プラセボ群53+-38時間で、26時間の有意差を認めた(p < .001)。プラセボ群でステロイド投与があったためnonparametric rank ANCOVAで調整すると、ショック離脱時間は全体平均44時間、HAT群33時間、プラセボ群54時間で59%の有意な時間差があった (F1,84 = 28.6, P < .001, adjusted R2 = 0.147)。SOFAスコアの変化はHAT群3 (1-6)、プラセボ群2 (0-4)で差の+1は有意でなかった (F3,103 = 1.3, P = .27) 。副次評価項目と安全評価項目:有意差はなかった。

Implication
Chest. 2017;151(6):1229-1238.で提唱されたHAT療法は、その後のRCT(JAMA. 2020;323(5):423-431.と Chest 2020:158(1);174-182)では当初ほどの治療成績を示せていない。本研究はその流れに続くRCTである。
<内的妥当性>
二重盲検化プラセボコントロールランダム化比較試験であり、割付は問題なく行われて、Intention to treat解析が行われている点は良い。国際ガイドラインの3時間バンドルに従って通常の敗血症治療を開始し、結果で輸液バランスを示している点もこれまでのRCTと比べて評価できる。しかし、4つの問題点がある。

  1. サンプルサイズ計算が Chest. 2017;151(6):1229-1238.での過大と思われる治療効果に基づいており、またco-primary outcomesにも関わらず αエラー5%と設定している。
  2. ClinicalTrial.govを参照すると、当初の主要評価項目は院内死亡率だったが、試験終了後にショック離脱時間とSOFAスコアの変化というsurrogate outcomeに変更されている。更に前者はcox回帰分析を行っているが、これは死亡というcompeting riskを無視している。
  3. 患者背景で昇圧剤を要したのがHAT群82%、プラセボ群68%と14%の差がある(P=.05, オッズ比0.45 [95%信頼区間: 0.20-1.02])中で、コルチコステロイド自体の昇圧作用の影響を調整しきれていない。オープンラベルで用いたコルチコステロイドの投与量・期間や投与された患者の割合が示されていない。
  4. HAT療法を開始するタイミングが救急外来から9.9+-4.5時間と遅い可能性がある。これは以前の2つのRCTから指摘されていた課題である。

<外的妥当性>
患者群の90%以上を白人が占めるという人種の問題はあるが、一般的な敗血症・敗血症性ショックの患者を対象としており、脱落も少なく、外的妥当性は高い。
・Reviewerの私見では本研究をもってHAT療法は敗血症に対して有効とは言えず、日常診療で採用することはない。今後よりよい研究デザインのRCTの結果を待ちたい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科