救急患者のICU入室までの時間と患者死亡率の関係 -オランダにおける後ろ向きコホート研究-

[ Journal Title ]
Emergency Department to ICU Time Is Associated With Hospital Mortality: A Registry Analysis of 14,788 Patients From Six University Hospitals in the Netherlands
Crit Care Med. 2019 PMID:31393321

[論文の要約]
・背景
一般的に重症患者は可能な限り早期にICUに入室させることが望ましいが、実際にはトリアージ、診断や治療のプロセス、病院の構造などの問題で入室が遅くなることがある。先行研究では病棟からICUへ入室する場合にその遅れが死亡率と相関することは示されている。一方、Emergency Department(ED)から直接ICUへ入室する場合においては、入室までに要した時間と患者予後の相関を支持する結果と否定する結果の双方が報告されている。ヨーロッパでのデータが不足しているため、今回オランダでの大規模データを用いて研究をおこなった。
・方法
研究デザインは、後ろ向きコホート研究を選択した。患者データはNational Intensive Care Evaluation(NICE) registryを使用した。これはオランダの84のICUが参加しているレジストリで、このうち、2009-2016年の期間に6つのacademic medical centerで、EDからICUへ直接入院した患者すべてを研究に組み入れた。ED to ICU timeは、EDに実際に患者が来院してから、ICUに患者自身が入室するまでの時間と定義した。Primary Outcomeは院内死亡率とし、Secondary OutcomeにICU死亡率、30日死亡率、90日死亡率を設定した。30日/90日死亡率など院内のデータのみで不足するデータはオランダの保険請求データベースを利用して獲得した。ED to ICU timeによって患者を五分位に分割して、統計学的評価を行った。患者背景因子は、連続変数についてはKruskal-Wallis testを、名義変数についてはΧ二乗検定またはFisher正確検定で評価した。Primary Outcomeについては、ロジスティック回帰モデルを利用した。五分位でのED to ICU timeが最短の群を基準として、まずED to ICU timeと院内死亡率の相関について尤度比を求めて評価した。次にAPACHE IVによって重症度の補正を行ったモデルを作成し、同様に尤度比を求めた。最後にAPACHE IVの重症度ごとにER to ICU timeと死亡率の相関を評価した。Secondary OutcomeのICU死亡率も同様の方法で解析した。30日死亡率および90日死亡率については、全体の5.5%の患者で生存期間のフォローアップを行えなかったためそれらを打ち切り例として、Cox比例ハザードモデルを利用し、以降の解析は上記同様に行った。
・結果
2009年1月1日から2016年12月31日までに15144人の患者がEDからICUへ直接入院していたが、そのうち356人のデータは有効ではなかったために除外され、14788人のデータを用いて解析を行った。年齢の中央値は59歳で、全体の62%が男性であった。疾患名は全体としては心肺停止、外傷、頭蓋内出血の順に多かったが、ED to ICU timeの五分位のそれぞれの群ごとに背景疾患については差を認めた。ED to ICU timeの中央値は2時間で、ICU死亡率は18.1%、院内死亡率は22.2%であった。Primary Outcomeについては、まずED to ICU timeを解析した。ED to ICU timeと院内死亡率には負の相関がみられ、長い群ほど院内死亡率が低い傾向がみられた。1.2時間未満の群と比較して、2.4-3.7時間と3.7時間以上の群ではそれぞれ尤度比は0.82、0.56であった。次にAPACHE IV probabilityで補正を行ったところ、ED to ICU timeと院内死亡率には正の相関がみられた。1.2時間未満の群と比較して、2.4-3.7時間と3.7時間以上の群ではそれぞれ尤度比は1.20、1.27であった。最後にAPACHE IV probabilityで重症度ごとに層別化解析したところ、より重症の群でED to ICU timeと院内死亡率に強い相関がみられた。Secondary Outcomeでは、ED to ICU timeとICU死亡率は負の相関がみられた。これをAPACHE IV probabilityで補正したところ、統計学的に優位な相関はみられなかった。ED to ICU timeと30日死亡率は負の相関を示した。これをAPACHE IV probabilityで補正すると、正の相関がみられた。90日死亡率については、院内死亡率と同様の結果を示した。

[Implication]
一定の見解が未だ得られていないEDからICUへ直接入院する時間と患者予後の関連というRCTが行いにくい臨床疑問に答える研究である。またICU入室までの時間が長いことと院内死亡率との相関が、より重症度が高い患者において強いことを示唆している点で重要である。しかし、患者の重症度によって補正をする際に、重症度の指標としてAPACHE IVを使用したことで本研究の結果に影響を与えた可能性がある。APACHE IVはICU入室後24時間以内で評価を行う指標であり、EDからICUへ入室するまでに行われた治療によって影響を受けている可能性があり、これは中間因子である。例えば、重症で来院しEDで時間をかけて蘇生されてからICUへ入室した場合、本来よりもAPACHE IVが低い群に、本当は重症である患者が分類される可能性がある。このように中間因子を用いて補正を行ったことによって内的妥当性については疑問がある。外的妥当性についてはオランダのacademic medical centerのみの研究であり、広く世界や日本において適応できる結果であるかは疑問である。一方で、先行研究でもED滞在時間が予後不良と関連することを指摘した研究は存在し、重症患者ほどEDから速やかにICU入室を達成することを日常診療において意識していくことは重要だろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科