Journal Club

本日のジャーナルクラブは、係の先生が指定された論文ではなく、脊髄損傷患者さんの呼吸器合併症対策に関する約20分のDVDの視聴とさせてもらいました。10年以上前に北九州の総合せき損センター見学の際にいただいた「せき損患者の呼吸器合併症予防のケア」についての新人看護師対象のビデオですが最近の巣ごもり片付けででてきた「秘蔵」DVDです。

最近、2例の脊髄損傷例が続きともに受傷直後から全身状態が不良な状態で救急救命科が主科で当科が併診する事になりました。一例は上位胸髄での、もう一例はC5以下での完全横断性麻痺でFrankel Aです。このような症例は無気肺をベースにする呼吸器合併症のリスクがあります。実際、2例とも気管内挿管、補助呼吸、強制換気、気管切開の後にウィーングの治療を要して早期のリハビリテーションによる離床が出来ませんでした。総合せき損センターでは同じFrankel Aでも上肢機能100%のなら半年で社会復帰、四肢麻痺であっても一年で自宅退院がリハビリテーションのゴールとしていました。このゴールに対して呼吸器合併症によるスタートの遅れは、起立性低血圧、廃用性障害、褥瘡などのリスクを高めますます離床を困難にすることになります。総合せき損センター見学で一番驚いたのは「濃厚にして密」な肺ケアでした。DVDを改めてみますとその神髄が語られていることに感嘆した次第です。反省しろ、との神あるいは故 芝先生(当時センター副院長)のお告げでしょうか、コロナによる巣ごもりでタイムリーな勉強資料がでてきたというわけです。

内容はせき損急性期は分泌物増加の一方で去痰機能低下による呼吸機能低下は必発で合併症とならないためにはどう看護、ケアしたらよいか、です。過去25年間で呼吸器合併症発生率は0.05%であると信じがたい実績の紹介からビデオが始まります。要点は頻回の体位交換、効率的な体位ドレナージ、用手的排痰サポートです。体位交換は1〜3時間おきに、体位ドレナージは大きな抱き枕を使っての前側45度の半腹臥位を15〜20分、半側臥位でするにしても40〜60度の傾きは必要、用手的排痰サポートは仰臥位で両腕で振動を加えつつ胸部あるいは腹部を患者の呼気のタイミングにあわせて強く勢いよく押す、端から見て心臓マッサージかと思うくらいに。最後に人体模型にセンサーをつけて実技でどのくらいの圧でどのくらいの排気サポートになっているかをオシログラムで示す研修装置も紹介されています。
これはせき損患者さんにすべき看護の実際を示したビデオですが、その看護作業の濃密さとそれでもワンチームとしてこれだけは共有していくぞという覚悟には感銘を受けます。その背景にはせき損センターとしての使命感と専門施設であるという誇りを感じます。
ではDrは何をするかというと、とにかく早く必要な固定術を行って、このような「激しい」肺ケア、早期の離床リハビリテーションを可能にする、ということにつきるという芝先生の言葉を思い出す機会になりました。優れた論文抄読と同じように「このままではいけない」と思わせる時間になったかと思っています。

脊椎脊髄外科 譲原 雅人

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療