スポーツ医学とは9- 瞬発系スポーツ、持久系スポーツのための栄養術

今回は瞬発系スポーツと持久系スポーツを行う上で重要な栄養のお話をさせていただきます。

瞬発系スポーツ

瞬発力とは数秒から数十秒の大変短い時間に爆発的なパワーを発揮する能力のことです。100m走、水泳の短距離が代表的ですが、野球やサッカーなど他のスポーツでも当然瞬発力が必要になる場面は多いです。

こういった瞬発系スポーツでは筋に含まれるATP(アデノシン三リン酸)、CP(クレアチンリン酸)と呼ばれる物質によりエネルギーが供給されます。このため瞬発系スポーツ選手は競技能力向上のために筋量を増やそうとします。

筋量を増やすためにはトレーニングで筋に与えた負荷を回復し、さらに筋量を増やすだけのたんぱく質の摂取が必要です。瞬発系スポーツ選手では体重1kgに対して2gの摂取が基本とされています。さらにトレーニングで消費するエネルギー源としての炭水化物を確保する必要があり、これが不足するとエネルギー確保のために筋たんぱく質が分解されて、結果的に筋量が減ってしまうので効率的な筋量増大ができません。具体的には、エネルギー比率でたんぱく質1に対して炭水化物3の割合で摂取するのがよいという報告があります。

持久系スポーツ

持久力とはある強度の運動を長い時間継続する能力のことです。マラソンやスキーの距離競技などが代表的です。

こういった持久系スポーツでは特に骨格筋のグリコーゲンが運動能力を決める重要な因子であるとされています。実際に持久系スポーツでは筋グリコーゲンがなくなると運動を継続できなくなります。

このために持久系スポーツ選手は筋グリコーゲンがなくなってしまうまでの時間を長くするように、1.運動前に筋グリコーゲン量を増やしておく、2.運動中の筋グリコーゲンの消費を減らす、などの工夫をするのです。

このうち前者には炭水化物ローディング(carbon loading)といって、大会約1週間前には糖質の少ない食事をとることで筋グリコーゲンをいったん低下させ、その後大会数日前から糖質の多い食事をとることで筋グリコーゲン量を増大させるという方法があります。

一方後者には持久系のトレーニングをこなすことで筋グリコーゲン量を増やし、脂質代謝のための酵素が活発にはたらくようにするという方法があります。これによって通常よりもエネルギー源として脂質代謝が高い割合を占め、筋グリコーゲンの消費を減らすことができます。

最後に

瞬発系スポーツと持久系スポーツにおける栄養について書きましたが、重要なことは過度な運動により食事を十分に摂ることができないような状況は、結果的に運動量を少なくすること、そして、サプリメントなどの栄養補給で安易に問題を解決しようとしないことです。時に成長期の子供でもエネルギー食品ばかりを食べている選手をみかけますが、ご両親、部活動の顧問の先生方、周囲の医療関係者などが栄養に関する正しい知識をもって子供たちに教えてあげることが、成長期の選手自身の健康、さらには競技力向上にとって重要であると私は思います。

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トップアスリートが集まる国立スポーツ科学センターのカフェテリアには、各料理に栄養表示と共にこのようなマークがつけてあり、選手の栄養管理をサポートしています。

スポーツ医学科 大内洋

このサイトの監修者

亀田総合病院
スポーツ医学科主任部長 大内 洋

【専門分野】
スポーツ整形外科、関節鏡手術、スポーツ整形外科疾患に対する超音波診断
PRP療法、体外衝撃波、高気圧酸素治療の最新治療法