亀田メディカルセンター｜亀田総合病院 スポーツ医学科

高気圧酸素療法 （HBO:Hyperbaric Oxygen Therapy)

【概要】

高気圧酸素療法は、気圧を高気圧に保った環境下で一定の時間高濃度の酸素を吸うことで人体に対して様々な効果が得られます。

一酸化炭素中毒や潜水病、重度の感染症や血行障害などの治療として利用されていますが、近年ではその効果がスポーツ医学の世界でも応用されてきています。サッカーの2002年日韓ワールドカップの大会直前にイングランドの選手が足を骨折し、大会出場のため高気圧酸素療法施行したのも有名な話です。
当院でもリーグ戦中のアメリカンフットボール選手、プロ野球選手など多くのスポーツ選手が利用しています。

【作用機序・効能】

2.0〜2.5気圧（通常の2〜2.5倍）の高気圧環境を作り、その環境下で高濃度の酸素を治療時間中吸入し続けることで、1体内の加圧2酸素の血中溶解量の増加効果を得ることができます。

1や2は具体的にはどのような効果が期待できるのでしょうか？

1：体内の加圧

これは、捻挫や骨折によって生じた浮腫（腫れ）を改善させる効力があります。外傷によって生じた浮腫は、筋肉や脂肪などの組織間に炎症によって発生した水分貯留が原因です。
これを、高気圧環境下で組織間の圧が上昇することで、これを取り除く事が可能です。急性期の浮腫が早期に改善すれば、浮腫の圧迫によって生じる疼痛の改善、関節可動域制限の改善などの効果が期待できます。

2：酸素の血中溶解量の増加

高気圧環境下での高濃度酸素の吸引は、通常の10〜20倍の酸素が血液中に溶解します、これにより、体内の隅々の末梢の血管まで酸素が行き渡ります。
酸素は、スポーツで傷んだ組織の修復に大変有益で、急性期の筋の壊死の再生、血管新生、線維芽細胞増生、コラーゲン形成の促進などの効果が報告されており、スポーツにより損傷した組織修復促進効果が期待できます。

スポーツ選手に対しては高気圧酸素療法の上記1,2の効果により、早期のスポーツ復帰が必要な場合には治療期間の短縮が期待できます。

【スポーツ傷害への治療】

スポーツ傷害に対しては相談に応じて非保険診療（自費診療）という形で高気圧酸素療法を行っております。
当施設で高気圧酸素療法を行っている保険適応外のスポーツ傷害

筋断裂（肉離れ）
筋挫滅（重度の打撲）
外傷性骨折
疲労骨折
靭帯損傷

【治療の流れ】

治療は約90分間要します。

1. 事前の問診・説明・検査（胸部レントゲン）
2. 高気圧酸素チャンバーへ入室
3. 100％酸素の吸入
4. チャンバー内の加圧（60分かけチャンバー内気圧を2.5気圧まで加圧）
5. チャンバー内減圧（30分かけチャンバー内圧を1.0気圧まで減圧）
6. 減圧後、問題なければ治療終了

【治療の危険性・合併症】

基本的に高気圧酸素療法は人体への影響は少なく、副作用や合併症は非常に少ない治療ですが、下記危険性や合併症が挙げられます。

1. 気圧外傷（胸・耳・鼻）：肺外傷、気胸、鼓膜外傷、滲出性中耳炎等の既往歴がある方は、疾患悪化の可能性があります。

2. 酸素中毒：息苦しさ、呼吸困難、めまい、痙攣、嘔気、視力、視野障害等の症状が出現する可能性がございます。

3. 火災：使い捨てカイロやライター等の火気物は絶対に所持しないでください。

【出典】

1. Robert E.Leach:Guest Editorial Hyperbaric oxigen therapy in sports,American Journal of Sports Medicine, Vol.96,No.4,489-490,1998

2. Haapaniemi T: Hyperbaric oxygen reduces ischemia-induced skeletal　muscle injury. Discussion with William A. Zamboni. Plast Reconstr Surg,97: 608-609, 1996

3. Haapaniemi T, Nylander G, Sirsjo A, et al: Hyperbaric oxygen reduces ischemia-induced skeletal muscle injury [Review]. Plast Reconstr Surg 97:602-607, 1996

4. Nemiroff PM, Lungu AL: The influence of hyperbaric oxygen and irradiation on vascularity in skin flaps. A controlled study. Surg Forum 38:565-567, 1987

5. Nylander G, Lewis D, Nordstrom H, et al: Reduction of postischemic edema with hyperbaric oxygen. Plast Reconstr Surg 76: 596-603, 1985

6. Nylander G, Nordstrom H, Lewis D, et al: Metabolic effects of hyperbaric oxygen in postischemic muscle. Plast Reconstr Surg 79: 91-97, 1987

7. Tabrah FL, Tanner R, Vega R, et al: Baromedicine today--rational uses of hyperbaric oxygen therapy [Review]. Hawaii Med J 53: 112-115, 1994

8. James R.Staples et al :Effects of Hyperbaric Oxygen on a Human Model of Injury,American Journal of Sports Medicine,Vol.27,No.5,600-605,1999

9. Tero A. et al : Muscle Injuries Biology and Treatment ,American Journal of Sports Medicine, Vol.33,No.5,745-764,2005