ご挨拶

部長: 角田明良 プロフィール詳細 >>>

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新しい技術で自己実現します

いつの時代でもその時の技術は、早晩過去のものとなります。新しいと思っていたその時の考え方も、時の流れとともに錆びていきます。成功体験に頼ると一時はよくても、次第に衰退しています。いつも自ら変わろうとする意思によって、新しい世界を見ることができるのです。
医療のなかで外科の世界は保守的です。

技術の伝承という面が強いからですが、伝承される若い世代からすると、技術の習得後にはおのずと次の新しい展開を期待するものです。しかし、それは容易なことではありません。先輩医師の壁、さらに医療安全の確保が求められるからです。
それでも野心的な人はそれらの壁を突き破ります。職業人として自己実現に無関心な人はいません。病んでいる人のためにより良い治療法を創るのは医療人の喜びです。われわれの直腸肛門科はそういう人に最適の場を提供します。

当科の対象とする疾患は、当該臓器のうち悪性疾患を除いたものです。とりわけ排便障害の診断・治療は当科の最も得意とするところです。本格的な高齢化社会の到来で、便失禁や便秘で長期にわたって悩んでいる方が格段に多くなってきました。多くの医療機関では癌などの器質的疾患がなければ、止痢剤や下剤で経過をみるだけでそれ以上の精査はしません。専門外の医師にあまり認識されていませんが、直腸重積、直腸瘤、小腸瘤、会陰下垂、排便協調障害、糞便排出不全などは、便失禁や便秘の原因になる疾患です。
排便障害の診断に必要な検査には、排便造影検査、肛門超音波検査、肛門内圧検査、MRI検査などがありますが、当院では全てが可能です。保存的治療が基本であることに論を待ちませんが、奏効しない場合は外科的治療の適応になる疾患があります。当科では直腸重積、直腸瘤、小腸瘤に内視鏡手術であるlaparoscopic ventral rectopexy (LVR)が積極的に行われています。LVRは欧州で開発された術式ですが、本邦では私たちが一番早く取り入れました。直腸脱を含めるとLVRの経験は2016年までに160例を越えており、本邦で一番の診療実績です。直腸脱に性器脱・膀胱脱が合併する場合には、ウロギネ科や泌尿器科と同時に内視鏡手術を行っています。直腸瘤に対するtransanal anterior Delorme (TAD)法は当科のオリジナルで性機能障害をきたさない術式です。便失禁に対する仙骨神経刺激療法も海外研修の基に本邦で保険適応になる前から経験しています。
三大肛門疾患でも新しい治療法を取り入れています。痔核に対する痛みの少ない痔動脈結紮・直腸粘膜固定術、痔瘻に対する肛門括約筋温存術式である括約筋間瘻管結紮術、慢性裂肛に対するジルチアゼム・ゲルの開発などです。排便障害を含めて当科で現在進行形の臨床研究は6本です。

自ら変わろうとする意思が大切なのは上述のとおりですが、変わるきっかけになるのはやはり人です。人は人によって変わるものです。若かりし頃の私も、Coloproctologyの世界的権威である、Professor John Nichollsに師事して変わることができました。今、直腸肛門科の領域で常に「新しい私」でいられるのは、この人に出会ったからです。当科にはこの「新しい人」が多くいます。高橋知子先生は肛門・会陰超音波検査のスペシャリストです。プローブをあてるだけで直腸重積、直腸瘤、小腸瘤が簡単に診断されます。また直腸瘤に対するTAD法を最も多く経験しています。理学療法師の平井菜穂さんは便失禁や排便協調障害に対する理学療法の専門家です。臨床検査技師の大澤郁子さんは肛門内圧検査、直腸感覚検査の専門家です。亀田京橋クリニック・管理栄養士の中野かおるさんは便失禁に対する食事指導の専門家です。それぞれの所属学会で定期的に新知見を発表しています。
便失禁や便秘が改善すると、患者さんからとても喜ばれます。当科で「新しい人」になって一緒に患者さんの笑顔を見ませんか。