vol.62 ISAPのオピオイドに関する声明(2018/2/20)

IASP(国際疼痛学会)が昨日、オピオイドに関するposition statementを発表しました。その概要は以下です。

  • 様々な病態の悪化に伴う急激な痛みで短期的な痛みと予測される急性痛やend-of-life pain(cancer painを含む)に対しては、従来通りしっかりオピオイドを使用すべきである
  • 痛み治療へのアクセスは人としての基本的な権利である(IASP2010年モントリオール宣言)
  • 一方、慢性痛に対して、急性痛やend-of-life painと同じようにオピオイドを使用することについては、長期的なアウトカムを支持するエビデンスがなく、依存、誤用、乱用が米国やカナダで大きな社会問題となっていることからも、処方時に十分な注意を要する。
  • 慢性痛治療には、QOLが改善することに焦点をあてることが重要であり、認知行動療法やリハビリアプローチを慢性痛治療に統合することが重要
  • オピオイドによるリスクを最小限にしたりオピオイドの代替療法を開発する様々な研究を行ってゆく必要がある

私が米国Beth Israel Medical Center (NY)pain management programのフェローをしていた2004年当時、同部門長でAPS(American Pain Society)の会長も歴任されたDr. Russell K. Portenoy(P先生)や他の指導医らは、揃って真に湯水のように様々な難治性慢性痛に対してオピオイドを処方していました。そのP先生には約10年ぶりに数年前日本でお会いする機会がありました。私は、P先生に、今でも先生はそのような診療をされているのですか?と聞くと、P先生は、私に指導をしていた当時の、慢性痛にも強オピオイドを分け隔てなく処方する診療スタイルは今は変えたよ、とおっしゃっていました。その当時は善であると信じてやっていた診療内容でも、それを否定する別のアウトカムが登場すれば、素直に診療スタイルを変えるのは当たり前じゃないか?と涼しい顔をしておっしゃっていたのが印象的でした。米国における慢性痛へのオピオイド診療方針ほど、過去10年間で大きく方向転換されたものはないでしょう。それほど、現在の米国における慢性痛患者のオピオイド依存は深刻なのだと思います。

様々な疾患による慢性痛の患者さんが私の外来にも大勢おられます。このIASP指針の通り、慢性痛ではペインスコアそのものではなく、生活の質(QOL)を重視しつつ、極力オピオイドに頼らず、リハビリや行動療法などをバランスよく交えながら、ケアできる体制を確立してゆきたいものです。

(関根)

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このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和