vol.58 21世紀の緩和ケア専門研修に求められるもの

Hospice and Palliative Medicine Fellowship Training for the 21st Century(21世紀の緩和ケア専門研修に求められるもの)J Palliat Med. 2018 Feb;21(2):127.
Dr. Vincent Jay Vanston(ペンシルベニア大学の緩和医療専門医)のコメントですが、とても共感できる内容です。日本でもほぼ同じことが当てはまると思います。

概要は以下:

  • 米国では緩和医療専門研修プログラムが年々増加しているが、その増加のスピードは需要の急増に追いつけていない
  • 専門研修で教えることは、一対一の個別ケアのみに偏っている
  • 年間緩和医療専門医は120人増加しているが、米国全体では250万人が亡くなっている。こうした膨大の数の死亡者に対して緩和ケア従事者の数は圧倒的に不足している。この死亡者はさらにbaby-boom世代が死亡年齢に至るときにもっと増加する。
  • 需要(死亡者数の増大)と供給(緩和ケア提供者不足)のミスマッチによって現場は疲弊している。米国ではホスピス緩和ケア従事者の6割が燃え尽き(burnout)を経験していると言われる。
  • 燃え尽きの原因として、常に死と向き合う仕事であること、仕事量の増大、病院側からのサポートが得られないこと、緩和ケア提供者のセルフケア能力不足などが挙げられる。
  • データから判断すると、ホスピス緩和ケア医のみが、すべての死に至る患者をみることは不可能であることは自明である
  • すべての死に至る患者に必要な緩和ケアが提供されるようなケアのシステムを考えねばならないだろう
  • これからの緩和ケア専門医は、Population health(集団を対象とした健康政策:公衆衛生)を理解し、どのようにしたら緩和ケアがすべての人(がん、臓器不全、認知症など)に行き渡るか、その対策について対応せねばならない
  • ITを利用した緩和ケア普及戦略も必須である
  • 終末期患者をどうやったら正確に同定できるのか、予後予測も精度を高めることが重要である。
  • 緩和ケア医師は、単に優秀な臨床医であるだけでは不十分であり、人口全体を見据えて全体に緩和ケアを行き渡らせるシステムをどうやって作っていくかについて模索する主体でなければならない。緩和ケア専門プログラムでも研修内容にそのような内容を含める必要があるだろう。

(関根)

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このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和