TARGET

post39.jpg【論文】
TARGET Investigators, for the ANZICS Clinical Trials Group, Chapman M, Peake SL, Bellomo R, Davies A, Deane A, Horowitz M, Hurford S, Lange K, Little L, Mackle D, O'Connor S, Presneill J, Ridley E, Williams P, Young P.
Energy-Dense versus Routine Enteral Nutrition in the Critically Ill. N Engl J Med. 2018 Nov 8;379(19):1823-1834. doi: 10.1056/NEJMoa1811687. Epub 2018 Oct 22. PubMed PMID:30346225.

【Reviewer】 Nobu.Kusaka

【Summary】

  • 集中治療患者において1日あたりの総カロリー量が予後に与える影響を検証したTARGET試験では、経腸栄養(EN)投与速度を1mL/kg/hr (理想体重)と一定にし、1.0kcal/kg/hr群(標準投与)と1.5kcal/kg/hr群(高カロリー投与)を比較したが、90日死亡率は変わらなかった。
  • 事前に規定した7つのサブグループ解析でも、生存期間、臓器サポートの導入、ICU外での生存日数、院外での生存日数、生存かつ非臓器サポート日数、感染性合併、有害事象は変わらなかった。
  • 人工呼吸を行う集中治療患者にあえて高カロリー投与をする必要はない。

【Research Question】
人工呼吸を行う集中治療患者において高カロリー投与は通常カロリー投与と比較して90日死亡を改善するか

【わかっていること】

  • 集中治療におけるガイドラインではエネルギー不足を補うために支出に見合うエネルギーを補充することが推奨されている。
  • ICU入室早期にENが開始されることが多く、1kcal/mlの製剤が1ml/kg/hrで投与されることが多い。
  • 消化管不耐性や投与方法などの様々な観点から60%未満のエネルギー投与が推奨されている。
  • エネルギーの投与量とアウトカムの関係性に関しては相反する報告がなされている。
  • いくつかの観察研究とPilot RCTでは低いエネルギー投与量は死亡の増加と関連していた。
  • EDEN Trial 2012では、Trophic feeding (最低400kcal/day,必要カロリーの25%)とFull feeding (最低1300kcal/day,必要カロリーの80%)を比較し、primary endpointである非人工呼吸器日数に優位差なく、secondary endpointの60日死亡率、臓器障害、新規感染症発生率にも優位差はなかった。
  • PermiT Trialでは、permissive underfeeding group (標準カロリーの40〜60%)とstandard feeding group(標準カロリーの70〜100%)を比較し、primary endpointの90日死亡、secondary outcomeのICU死亡率、28日/180日死亡率、SOFA scoreなど優位差を認めなかった。
  • しかし、どの研究もマスキングされていないことや、症例数が少なくpower不足であることなどの問題を抱えており更なる研究が待たれていた。

【わかっていないこと】

  • 投与カロリー総量がアウトカムに与える影響

【仮説/目的】
人工呼吸管理下の患者において、経腸栄養補給に高エネルギー栄養剤を使用した場合はルーチンの経腸栄養を行った場合と比較して90日生存率が高い

【PICO】

P 人工呼吸管理下の成人

Inclusion Criteria:

  • 18歳以上
  • 気管挿管・人工呼吸器患者
  • 経腸栄養をこれから始める、または開始して12時間以内の患者
  • 今後少なくとも2日間は経管栄養を使うと予想される患者

Exclusion Criteria:

  • 入室後12時間以降に経管・経腸栄養が開始
  • 臨床医が1ml/kg/hrの投与速度は禁忌であると判断
  • 医師・栄養士が特定の栄養を指定
  • 医師などの方針決定者が、死期が切迫している/積極的治療に適さないと判断
  • 90日生存が難しい基礎疾患がある
  • 15%以上の熱傷
  • すでに1度TARGET studyに組み入れられていた

I 1.5kcal/ml の経管栄養
C 1.0kcal/ml の経管栄養
O 90日死亡率

【期間】
2016.6.21から2017.11.14まで

【場所】
オーストラリア、ニュージーランドの46のICU

【デザイン】多施設二重盲検RCT

  • 事前プロトコルの有無:有 Protocol 
  • ランダム化の方法: Webベースのランダム化 ブロックランダム化
  • 隠蔽化の有無: Webベースの中央割付で隠蔽化されている
  • マスキングの有無と対象者: 栄養剤のパッケージングで内容が確認出来ず、患者,治療者、アウトカム評価者、データ評価者がマスキングされている

【N】4000

【介入】1.5kcal/ml の経管栄養

【対象】1.0kcal/mlの経管栄養

【両群共通】

  • ICU入室し、TARGETプロトコルに組み込まれてから28日間栄養を行う。
  • 目標投与速度(1ml/kg/hr)は理想体重で計算する。
  • 総投与量は48時間以内に達成する。
  • 連続5日以上プロトコルを遵守した場合、変更可能。
  • プロトコル中止基準は、死亡、ICU退室、経口摂取可能。

【主要評価項目】90日死亡率

【副次評価項目】
28日/180日での退院死亡、Randomization後の生存期間、ICU入室期間、入院期間、非人工呼吸器/非透析/非昇圧薬期間、180日後の機能的予後

【Subgroup 解析】
65歳以上、入室時診断、ANZICS CORE、BMI (<18.5、18.5 to 24.9、25.0 to 29.9、and ≧30.0)
生存期間、臓器補助の導入、生存し ICU 外にいる日数、生存し院外にいる日数、生存し臓器補助を要しなかった日数、感染性合併症の発症、有害事象の発現への影響

【解析】

  • すべての解析プランは事前に計画
  • サンプルサイズ計算: 検出力80%、ベースの90日死亡率が20-30%でARR3.8%〜4.3%と仮定し、3774人とした。6%の脱落を考慮し、4000人と計算した。
  • ITTの有無:modified ITT解析
  • 中間解析: 1500人集まった時点で解析を行い、O'Brien-Fleming designに基づき中間解析でのP値はp=0.005とした。
  • 主解析: 90日全死亡、28日死亡、院内死亡に関してはlog-binomial regressionで相対リスクを求めた。調整因子としては、施設/国/年齢/性別/APACHE score/BMI/入室条件(外科・救急手術)とした。
  • 感度解析: あり
  • Per-Protocol解析:あり


【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外): 5920人がスクリーニングされ、1743人が除外され4000人が組み入れられた。除外のうち41人が同意拒否、136人が詳細不明の理由であった。4000人をrandomizationし、intervention群が1997人であり、26人がmodified ITTからは除外、23人がprimary outcomeの解析から除外された。2003人がcomparison群に割り付けられ、17人がmodified ITTからは除外、20人はprimary outcomeの解析においては除外された。追跡率97.9。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性):baselineはほぼ同等。 おおよそ年齢57歳前後、BMI29前後、APACH score22点前後であった。
  • アドヒアランス:1.5-kcal 群では、43人、1.0-kcal群では、37人が介入を受けなかった。
  • 主要評価項目:
    90日死亡: 1.5-kcal 群 523/1948人(26.8%) vs 1.0-kcal群では505/1966人(25.7%) (relative risk、1.05; 95% CI、0.94 to 1.16; P = 0.41)
  • 副次評価項目:
    28日/180日での退院死亡、Randomization後の生存期間、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器/透析/昇圧薬を使用しない期間、180日後の機能的予後の全てにおいて有意な差は認めなかった。

【Strength・Limitation】

  • Strength
    ・多施設研究、二重盲検である
    ・症例数が多い
    ・除外が少ない
    ・脱落が非常に少なく症例を追跡できている
    ・営利企業の資金提供がない
    ・二群の栄養投与量の差をつけることが出来た
    ・Clinical Questionがpragmaticである
  • Limitation
    ・Exclusion criteriaでの特定の栄養の除外は選択バイアスになりうる
    ・早期栄養開始の時期がプロトコル化されていない
    ・同じ濃度の製剤で投与速度を変えるpracticeに外挿して良いか不明
    ・血糖値に差が出てしまうことで臨床医が気付く可能性がある

【論文の結論】
ICU患者においてエネルギー濃度をあげて、エネルギー量を増やしても生存に影響しない。

  • 飛躍していないか
    していない

【批判的吟味】

<内的妥当性>

・デザインとしてランダム化・隠蔽化・マスキングに問題がない
・これまでの栄養に関する論文で最もpowerがある

<外的妥当性>

・除外や脱落が少なく一般可能性が高い
・1.0ml/kg/hrを48時間以内に達成するなど、日常診療との乖離がなく、Pragmaticなものである
・BMI29、年齢層も57歳前後であり、年齢や体型の差が日本人や高齢地域のICUとは異なる

【Implication】
今までにも集中治療に関する栄養の論文は多く発表されているが、本論文は今までで最もpowerがあり、デザインも非常に優れた論文である。マスキングしながらもカロリー量の差を出すために、流速の固定をして濃度の違う栄養剤を使うという着眼点も秀逸である。主解析ではlog-binomial regressionでRCTであるが交絡因子調整が行われており(double robust estimationのため)、頑健性の高い結果となっている。
今回結果はこれまで「over feedingを避け、under feedingが大事!」と考えてきた人にはそうでもないことがわかり、「もっとエネルギー量を増やした方が良い!」 と考えて来た人にとっても同様の結果になった。今回差がつかなかったが、十分なpowerやマスキングの出来た質の高い文献であり、高めのエネルギー投与でも予後に影響しないという見解は結論が出たとして良いように思う。

【本文サイト】
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1811687
https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1811687/suppl_file/nejmoa1811687_appendix.pdf

【もっとひといき】
EDEN Trial:https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1355969
PermiT Trial:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1502826


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学