Cisatracurium vs Vecuronium

post24.jpg【論文】An Observational Study of the Efficacy of Cisatracurium Compared with Vecuronium in Patients with or at Risk for Acute Respiratory Distress Syndrome
Am J Respir Crit Care Med. 2018 Apr 1;197(7):897-904. doi: 10.1164/rccm.201706-1132OC.

【Reviewer】駒井翔太

【目的】ARDS患者に対して、vecuroniumや他の筋弛緩薬はcisatracuriumと比較してアウトカムの改善に関連するか

<わかっていること>

  • 2010年にNEJMに発表されたACURASYS trialは、P/F<150 PEEP>5 人工呼吸開始して48時間以内の340人の患者を対象にcisatracurium(Benzylisoquinolinium系に属する筋弛緩薬)とplaceboを比較して、cisatracurium使用群において90日死亡改善を示した。
    ACURASYS trialの批判として、placebo群で深鎮静がプロトコール化されていること、平均PEEPが9とこれまでのstudyに比較して小さいことが挙げられていた。 
  • 現在アメリカで大規模RCTが行われており、1400人を対象としてcisatracuriumとplacebo(light sedation)とを比較している。ARDSに対する筋弛緩薬の有用性は、まだ検証途中である。
  • 2017年SCCM/ESICM合同で発表されたARDS guidelineでは筋弛緩薬使用について言及されていない。
  • 2016年JAMAで発表されたLUNG-SAFE studyは、多国多施設(459ICUs 50countries 12906Pts)での前向き観察研究でありARDSの疫学を検証した。Severe ARDSの38%に筋弛緩薬が使用されていた。

<臨床上の問題点>

  • 上記のように、cisatracuriumの有用性は検証されてきた。しかし本邦ではcisatracuriumは使用することができず、筋弛緩薬を持続投与する場合にはアミノステロイド系に属するvecuronium/rocuroniumを使用することになる。アミノステロイド系の筋弛緩薬はステロイド環を有することから、ICU-AWや横隔膜機能不全の増加が懸念事項となっている。

<わかっていないこと>

vecuroniumやrocuroniumはcisatracuriumと比較して似たような効果を持つか。

【PECO】

P ARDS患者
E vecuronium
C cisatracurium
O Hospital mortality

【デザイン】大規模データベース(Premier Incorporated Perspective Database)を使用した、プロペンシティスコアマッチングを用いた過去起点コホート研究

【期間】2010.1-2014.12

【場所】アメリカ

【対象】
下の3つを満たす患者を抽出

  1. 人工呼吸器を要したこと
  2. ARDSないしARDSリスクファクターの診断名がついていること 
  3. 入院2日以内に持続筋弛緩薬の使用を2日以上行っていること

■ ARDS リスクファクター
Acute hypoxemic respiratory failure/ Pneumonia/ Sepsis/ Trauma/ Burns/ other diagnoses or treatments (i.e., multiple transfusions)

■持続NMBA投与を抽出する方法は下記
1日の総使用量 > 添付文書上の最少の持続投与量(cisatracurium 0.03 mg/kg/hr、 vecuronium 0.05 mg/kg/hr)を70kgの人に24時間投与した場合の1日総投与量

【収集項目】
<Covariates>
Propensity Score算出のための共変量として下記を設定
年齢/ 性別/ 病院の性質<Hospital region/ Hospital size/ Rural vs Urban/ Teaching vs not>/ Elixhauser index (comorbidity score) /NMBA開始前vasopressor days/ NMBA開始前Renal failure days/ NMBA開始前Mechanical ventilation days/ NMBA開始前診断<ARDS / DIC / COPD / Sepsis / Septic shock / Acute liver failure>

<Outcomeとして下記を設定>
Hospital Mortality/ Ventilator days/ ICU days/ Hospital days/ Discharge home vs elsewhere

【解析】
"vecuronium群に割り付けられる確率" を上記の共変量を使用して算出。1:1でマッチングした(Caliper0.001)
最終モデルにはランダム効果として各病院を設定し、その他Propensity Scoreを計算するのに用いた共変量を入れた。また、2次解析として、同じ共変量を用いて多変量解析を行った。
感度分析として、病院の採用薬(cisatracuriumのみを採用している病院、atracuriumのみを採用している病院、両方採用している病院)で群分けして解析を行った。

【結果】
6925人に2日以上の筋弛緩薬投与が行われており、そのうち4735人がcisatracuriumを使用、2190人がvecuroniumを使用していた。Propensity Score Matchingの結果、各群1901人ずつがマッチングされた。
cisatracurium群では肝疾患や敗血症性ショックの診断病名がついている割合が多く、また合併症スコアが高い傾向にあった。
マッチされた2群間で比較を行った結果、病院死亡率に差はなかった。(OR 0.93; 95%CI 0.79-1.10 *本文中に粗死亡率の記載はなし) Ventilator DaysとICU daysはcisatracurium群で短縮する傾向が示された。(いずれも絶対差は約1日) また、cisatrasurium群で自宅退院する確率が高い傾向が示された。(OR1.19; 95%CI 1.00-1.43)
上記の傾向は、多変量解析の結果においても保たれていた。感度分析においても、本解析の結果と同一の傾向を示した。

post24_2.jpg

【結論】
 cisatracurium群とvecuronium群とで病院死亡に差はなかった。cisatracuriumを用いた群で病院滞在・ICU滞在がおよそ1日短い傾向にあり、自宅退院の割合が高い傾向にあった。
 この結果をもとに、筆者らは、cisatracuriumを使用することが推奨される、と結論づけている。

<Strength>

  • 大規模データベースを使用し十分な数の患者を対象にした。
  • Propensity Matching Analysis に加え多変量解析や感度分析を行い、同じ方向性の結果を示した。
  • cisatrasuriumはより重症の患者で使用されている可能性が高いにもかかわらず、cisatracuriumに有利の結果が出た。

<Limitation>

  • 測定されていない交絡因子が存在する。
  • データベースには採血結果や画像検査などの詳細な情報が存在しない。
    (ARDSにおいて重要な、P/F値 PEEP Tidal Volume 腹臥位療法の施行 ECMO導入 水分バランス などの情報が欠損している)
  • Misclassification /Under classificationの可能性があるが評価されていない。
  • 人工呼吸器を使用した理由/筋弛緩薬を使用した理由は実際には不明。
  • 病院の払い出しにより薬剤投与をしたこととしているため、実際に患者に投与されたか不明。
  • Ventilator daysであるため死亡に影響を受ける。
  • Propensity Matchをした結果、患者数を削っているため一般化可能性は下がる。

【Implication】
当施設では、vecuroniumおよびrocuroniumをARDSに使用することに関し、有効性・安全性が十分に示されていないことから、慎重な姿勢をとってきた。
本研究を受けて当施設ではこれまでと変わらず、ARDSに対してvecuronium/rocuroniumの使用を慎重に行う。

<理由>

  • ARDSに対する筋弛緩薬の有用性自体が、まだ検証中である。アメリカで1400人規模のRCT(ROSE trial)が行われており、この結果を確認する必要がある。
  • アミノステロイド系筋弛緩薬を使用することによって、cisatrasuriumよりもICU-AWの発生が増える可能性が指摘されている。本研究ではcisatracurium群で呼吸器日数・ICU滞在日数が短く、自宅退院の確率が高い傾向を示した。この結果からは、本邦で使用可能なvecuronium/ rocuroniumを積極的に使用する根拠は乏しい。

<今後の展望>

  • cisatracuriumが本邦で使用可能となる見通しは不明である。(採用されるにはかなりハードルが高いと考えられる)
  • 筋弛緩薬使用をしない群と、アミノステロイド系筋弛緩薬を使用する群との2群でRCTを施行することができれば、我々の臨床疑問に即した解が得られる。しかしcisatracuriumが広く使用される世界の事情を考えると、この2群比較は現実的ではない。今後はcisatracurium vs vecuronium/rocuronium の2群比較で、非劣勢試験が行われることが期待される。

【本文サイト】
PubMed https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29241014
https://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1164/rccm.201706-1132OC


Tag:, , ,

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学