Sepsis protocol in Zambia

post1.jpg【論文】
Effect of an Early Resuscitation Protocol on In-hospital Mortality Among Adults With Sepsis and Hypotension

【Research Question】
ザンビアの救急外来にきた成人敗血症で血圧低下した患者に対して輸液、血管作動薬、輸血による早期敗血症蘇生プロトコルは通常ケアと比べて院内死亡率を低下させるか

【わかっていること】

  • 先進国の敗血症の死亡割合は減少している
  • 先進国で敗血症の死亡割合が減少したのは敗血症プロトコル(RiversらのEGDT)の影響かもしれない
  • 低・中所得国では敗血症の死亡割合は依然として高い
  • アフリカでは蘇生輸液、血管作動薬の使用頻度が少ないことが知られている
  • ウガンダの成人敗血症を対象とした前後比較試験では輸液を含むマルチコンポーネントな介入では死亡率が改善した
  • ザンビアの成人敗血症を対象とした早期輸液と血管作動薬のRCTでは死亡率の改善を認めなかった(同一著者)
  • ウガンダ、ケニア、タンザニアで行われた小児の重症感染を対象としたRCT(FEAST trial)では輸液ボーラスにより死亡率が上昇した

【わかっていないこと】

  • 上記のRCTでは早期の輸液と血管作動薬の最大の利益を受けるはずである敗血症でかつ低血圧を伴う患者の組み入れが少なく、組織低灌流のない患者も組み入れられていた
  • 資源の限られた地域での早期蘇生プロトコルにより敗血症の予後が改善するかは今のところ不明である
  • 特に低血圧を伴う患者に有効かは不明である

【仮説/目的】
アフリカの成人敗血症で低血圧を伴う患者で早期輸液投与・昇圧剤・輸血の敗血症プロトコルは通常ケアと比べて院内死亡割合を減じる

【PICO】
P:アフリカの成人敗血症で低血圧を伴う患者
Inclusion criteria:18歳上成人患者、治療医により感染症が疑われる、SIRS≧2で定義される敗血症であること、低血圧(sBP≦90mmHg, MAP≦65mmHg)
Exclusion criteria:低酸素(SpO2<90%)、重度頻呼吸(RR>40/min)、発熱のない上部消化管出血、うっ血性心不全増悪、末期腎不全、Juglar venous pressure上昇、投獄中、早期の手術が必要
I:早期輸液投与・血管作動薬・輸血の敗血症プロトコル
C:通常ケア
O :主要評価項目 院内死亡割合

【期間】2,012年10月22日から2013年11月11日

【場所】ザンビアのザンビア国立大学付属教育病院

【デザイン】単施設オープランラベルRCT

  • ランダム化の方法:コンピューターによるランダム生成でブロックサイズ2,4,6でブロックランダム化
  • 隠蔽化の有無:封筒法を用いており、隠蔽化されている
  • マスキングの有無と対象者

マスキングされている:アウトカム評価者、データ解析者
マスキングされていない:患者、介入者、(確実な記載はないが)データ収集者

【N】212人

【介入】Sepsisプロトコル

  1. ランダム化後に2Lの輸液(生理食塩水かラクテートリンゲル液)を行う。投与後に研究ナースがJVPの評価を行う。
  2. もし患者に体液過剰(JVPの上昇)の所見がなければ4時間で2Lの輸液を追加する
  3. 最初の2Lで血圧が低ければ(MAP<65)BPを上げるためにDOA持続投与(10mcg/kg/min)する。1時間毎に血圧測定し≧65になるように量を調節する。
  4. 全ての患者で血液培養を提出し、血液培養、マラリアのスメアを採取し1時間以内に経験的抗菌薬投与を開始する(抗マラリア、結核の治療は臨床医に委ねられる)。
  5. Hb<7g/dlか顔面蒼白で定義される重度の貧血がある患者では同意を得て可能な限り早く輸血を行う。


研究ナースと学生の研究補助者は重症敗血症の発見することのトレーニングをうけ、JVP評価とMAPの計算とDOAの投与計算とSSSP事態のトレーニング受ける。
SpO2が3%低下した場合、呼吸数が5回以上昇した場合、JVPが3cm以上増加した場合は輸液を中止する。

【対象】通常ケア
ザンビア大学付属教育病院での敗血症に対する通常ケアは血液培養なしに、経験的抗菌薬を早期に開始し、低酸素があれば酸素投与を開始する。早期の敗血症での輸液は可能であり、輸液の際は1-4Lを30-60分で投与する。前回の研究では最初の六時間で2L未満の輸液量であった。救急外来ではCV、CVPの利用はできない。JVPはルーチンには測定しない。唯一つかえる昇圧剤はDOAである。また昇圧剤を投与することは通常ケアでは稀(前回研究で2%)である。輸血は先行研究では20%程度である。ICUが限られているため敗血症ではめったにICUに入室しない。
救急室の医師と他の臨床家により直接ケアされる。どちらの群でも研究ナースは指示通りにケアを行う。

【主要評価項目】
院内死亡割合(Hard/True/Single Outcome)

【副次評価項目】

  1. 28-day all-cause mortality
  2. In-hospital and 28-day mortalities adjusted for illness severity
  3. Time to death
  4. Culture proven tuberculosis infection
  5. Process measures, including IV fluid and dopamine quantities administered, and change in antibiotics based on culture results

【解析】

  • サンプルサイズ計算:同じセッティングでの先行研究で院内死亡率65%であったことから、絶対リスク減少を20%(Riversらの先行研究の相対危険減少で30.8%に基づいて)、検出力80%(β0.8)、αレベル0.05に設定し、サンプルサイズは212人と設定した。
  • ITTの有無:全ての解析はmodified intention-to-treat fashionで行われた。Figure1のフローチャートから介入群では106人の組み入れで106人を解析、コントロール群では103人を組み入れ103人を解析しているためITT解析している。

【結果】

  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性):年齢の平均値36歳程度で、SAPS3 56程度でHIVの有病割合が93-4%、結核治療中が25%程度を占める集団。年齢、重症度に大きな開きはないが、HIV患者での抗ウイルス薬開始時で90日程度の開きがあることと、GCSは通常ケア群で悪いため解釈に注意を要する。
  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外):382人のうち、212人が組み入れ基準を満たし、同意取得、ランダム化された。ランダム化後に3人で除外基準を満たすことがわかり、209人が研究の介入を受け、209人のフォローアップを完遂、主要解析を行っている。本文に書かれている内容と同様に、Figure1のフローチャートから212人がランダム化され、3人がランダム化後に除外基準が発覚し209人が解析対象となっており相違ない。退院後に介入群で9人、コントロール群で6人が退院後に脱落しているが、主要評価項目である院内死亡割合は209人で解析できている。このためフォローアップ率は100%である。二次評価項目の28日死亡では15人脱落で194/209人のためフォローアップ率92%である。
  • 主要評価項目
    主要評価項目である院内死亡率は介入群51/106(48.1%) vs コントロール群 34/103人(33.0%)で15.1%[95% CI, 2.0%-28.3%]の差があり、RR1.46[95% CI, 1.04-2.05]で有意差を認めた(P = .03)RR 1.458 95%CI 1.04-2.05, RRI (relative risk increase) 45.8% [95% CI 3.9-104.5], ARI (absolute risk increase) 15.1% [95%CI 1.8-27.7], NNH (number needed to harm) 7 [95%CI 4-56]
  • 副次評価項目
    28日死亡:介入群67.0% vs コントロール群45.3%  RR, 1.48 [95% CI, 1.14-1.91]; P=.002).
    重症度で調整した死亡:院内死亡でRR1.45 [95% CI, 1.04-2.02]; P = .03、28日死亡でRR1.41 [95% CI, 1.08-1.84]; P = .01.生存分析:Figure2、介入群で有意差をもって低い
  • サブグループ解析
    Figure3にサブルグループ結果が記載

【Strength・Limitation】
Strength:

  • 低・中所得国での初めての敗血症プロトコルの検証
  • ランダム化比較試験
  • プロトコルを標準化するためにトレーニングされている

Limitation

  • 単施設のための観測効果量の増大
  • ED受診後にすぐに組み入れているが発症から数日から数週間経過している可能性
  • 治療者、研究者がマスキングされていない
  • 敗血症プロトコルがJVPに基づいており、手技によりばらつく可能性があり、一致率は検証していない
  • SAPS-3による重症度調整した解析は資源の限られた国ではValidationされていない
  • 1/209人しかICUで治療されていない
  • 集団特性はアフリカ以外での外的妥当性に乏しい

【論文の結論】
資源の限られた地域において、HIV陽性患者が大部分の低血圧を伴う成人敗血症患者に早期の輸液投与と昇圧剤を使用するプロトコルは通常ケアと比較して院内死亡を増加させる

  • 飛躍していないか:この結論は、主要評価項目から得られた結果をただしく解釈しており飛躍していない結論といえる

【Implication】
 ザンビアはアフリカ南部に位置する共和制国。元イギリス領で現在は独立しイギリス連邦に加盟している。GDP224億ドルでほぼ島根県と同じ経済規模。世界平和度指数ランキングでは51/158位でアフリカ内一位。一方で2007年のHIV感染率は15.2%で平均寿命は38.6歳。ザンビア国内で高度先進医療を提供する総合病院は、ルサカ市内のザンビア大学付属教育病院である(Wiki調べ)
 筆頭著者のBen Andrewsはバンダービルト大学の公衆衛生教室とザンビア大学付属教育病院の内科医として所属している。先行研究であるSSSP研究の筆頭著者でもある。病院は1500床の国立病院で首都ルサカにある。HIVの有病割合は内科受診患者で50%である。ICUは10床、人工呼吸は8-10台ある。ICUはザンビアで唯一のICUである。占有率は95%で術後の合併症や重症患者がほとんど。経鼻酸素はどの部署でも使用可能だが、NIVは全部署で使用できない。人工呼吸器はICUでしか使用できない。重症患者は救急外来のAcute Bayで管理され、滞在時間は6-48時間で不安定すぎると内科病棟にうつれない。回診は日に2回(Supplementより)という診療体制である。
 本研究はこういった地域での敗血症にプロトコルによる管理が有効かを検証したアフリカの単施設オープンラベルRCT。プロトコル自体は無理なく施行できそうなものではあるが、死亡割合は逆に上昇するという結果であった。
 今回、同じセッティングでの先行研究で院内死亡率65%(同一施設での2014年のSSSP1研究では60.7-64.2%の院内死亡。なお本研究の結果では48.1%、コントロール群で33.0%)であったことから、絶対リスク減少を20%(先行する研究(Riversら)の相対危険減少で30.8%に基づいて)、検出力80%(β0.8)、αレベル0.05に設定し、サンプルサイズは212人と設定した。今回は解析対象が209人なので有意差がなければβエラーの可能性があるが有意差がついているためサンプルサイズの問題は考えなくても良い。サンプルサイズ計算に用いた先行研究データはRiversらの論文であり、妥当とは言えない。もう少し低く見積もる必要があった。また、結果として対照群の死亡割合は65%と見積もったにもかかわらず、33%であった。私はタンザニアの病院のER・ICUを見学した事があるが、そんなに設備が足りないようにも感じなかったが、マンパワーや教育は足りていないように感じた。今回は研究を行うことで医師や看護師が患者を細かく評価したことが対照群の死亡割合を低下させているのかもしれない。
 オープランラベルのためPerformance バイアスを考えなければいけないがその上でもプロトコルが惨敗している。DetectionバイアスとReportingバイアスはアウトカムをHardにしているため問題ないだろう。
 この結果を自身の臨床に適応できるかというと全く適応できない。対象集団がHIV、結核が多く全く、日本においては全く外的妥当性が低い。一方で、アフリカからの渡航者や、自身がアフリカで働く時は通常ケアを参考にするというのはありだろう。

 RCTとしては非常に良くできたRCTである。アフリカでできて日本でできないというのは非常に嘆かわしい。
EGDTに関してはARISE、ProMISE, ProCESSですでにその効果は現代の通常ケアと比較して否定されており、低・中所得国でも敗血症のプロトコルは否定された。
高所得国と低中所得国の特にアフリカでは見ている敗血症の集団が全く異なるものと考えられるためこの論文を持ってしてEGDTにトドメを刺したといえるわけではない。
Sepsis Forum 2017でも言及されていたが、敗血症と一括りにして介入効果を試していく時代は終焉を迎えつつある。
先進国で20%程度の敗血症死亡割合を15%に減らそうという努力よりは低中所得国で65%(今回は対照群が33%であったが)を30%に減らすほうが世の中のためなのではと個人的に思ってしまう論文である。

【本文のサイト】
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2654854?redirect=true

【もっとひといきつく】
・工事中

【引用】

  1. Andrews B, Semler MW, Muchemwa L, Kelly P, Lakhi S, Heimburger DC, et al. Effect of an Early Resuscitation Protocol on In-hospital Mortality Among Adults With Sepsis and Hypotension. Jama [Internet]. 2017;318(13):1233. Available from: http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?doi=10.1001/jama.2017.10913
  2. Andrews B, Muchemwa L, Kelly P, Lakhi S, Heimburger DC, Bernard GR. Simplified Severe Sepsis Protocol. Crit Care Med [Internet]. 2014;42(11):2315-24. Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00003246-201411000-00001
  3. Jacob ST, Banura P, Baeten JM, Moore CC, Meya D, Nakiyingi L, et al. The impact of early monitored management on survival in hospitalized adult Ugandan patients with severe sepsis. Crit Care Med [Internet]. 2012;40(7):2050-8. Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00003246-201207000-00006

Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学