亀田感染症ガイドライン:発熱性好中球減少症

発熱性好中球減少症の院内ガイドラインを作成しました。主に、救急外来・内科外来・病棟での初期対応を想定した内容(主に診断と初期治療、一部follow-up方法)となっています。詳しいfollow-up方法、抗真菌薬による経験的治療/先制攻撃的治療、化学療法中の予防内服については、引用文献のガイドラインを参考にしていただくとよいと思います。
このガイドラインは、当院ホームページからPDFでダウンロードしていただくことが可能です。

亀田感染症ガイドライン
「発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)」

(1)定義

  • 「好中球減少」とは、末梢血の好中球数が500 /?L未満、もしくは、48時間以内に500 /?L未満になると予想される場合、と定義される。
  • 発熱は、米国感染症学会は口腔温38.3℃、日本臨床腫瘍学会は腋窩温37.5℃と定義している。実際には、腋窩温38.0℃を「目安」とすればよい。
  • 好中球減少中に発熱来した状態がFNであり、これは診断名ではなく状態の名前である。
  • あくまで早期抗菌薬治療を開始するための「目安」であるので、定義を満たさない場合でも、FNに準じて治療することもある。
  • 頻度:固形癌の化学療法で10-50%、血液悪性腫瘍の化学療法で80%以上。

(2)感染臓器と微生物

  • 多くの場合、原因となる感染症(感染臓器や原因微生物)は不明。判明するのは20-30%。
  • 検出される菌は、グラム陽性菌では、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci:CNS)、黄色ブドウ球菌、Viridans連鎖球菌などが多く、グラム陰性菌では、大腸菌などの腸内細菌科細菌や、緑膿菌など。真菌が発熱初期の原因なることは稀であり、好中球減少が遷延し、経験的抗菌薬を1週間以上使用した後に出現することが多い。
  • 血液培養は、10-25%で陽性となる。血液培養陽性例では、CNSが最多。
  • 感染の好発部位は、腸管、肺、皮膚。その他、カテーテル、口腔内、副鼻腔、肛門など。

(3)診断・検査

  • 最適な経験的治療を決めるにあたって、感染臓器と原因微生物の推定が重要である。疫学情報、病歴、身体所見、検査所見(血液検査・画像検査・微生物検査)から推定する。
  • 炎症を起こす好中球がほぼ存在しないため、炎症を示す症状や徴候が弱い、またはないことが多いため、丁寧に診察する必要がある。経過中にfocusがはっきりしてくることがあるので、毎日、丁寧に身体所見をとる。
  • 身体所見を取る際、皮膚、カテーテル刺入部、中咽頭(歯周組織などの口腔内を含む)、消化管、肺・副鼻腔、陰部・肛門周囲を丁寧に診察する。腸管内の細菌による感染の懸念があるため、直腸診行ってはいけない(肛門周囲の診察は、視診と圧痛の確認を行う)。
  • 検査:末梢血・生化学、血液培養2セット(最重要)。尿検査・尿培養(尿路感染の可能性)。胸部レントゲン・喀痰培養(呼吸器症状や低酸素血症)。CDトキシン検査(下痢)。腹部造影CT(好中球減少性腸炎などの疑い)。

(4)初期治療(empirical therapy)

  • FNは内科的緊急症であるので、focusの特定ができなくても、各種培養検査を行ってから、抗緑膿菌活性のある抗菌薬を来院後2時間以内に開始する。緑膿菌感染による死亡率が非常に高いため、抗緑膿菌活性のある抗菌薬が推奨される。
  • 抗菌薬の選択:基本は、セフェピム(CFPM)またはピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)で単剤治療。過去に耐性菌が検出されているようであれば、感受性のある薬剤の中から選択する(例:ESBL産生菌の場合は、メロペネム)。肛門周囲膿瘍や好中球減少性腸炎が疑われる場合は、嫌気性菌カバーが必要(PIPC/TAZ、MEPM、CFPMとメトロニダゾール併用)。
  • アミノグリコシドまたはキノロンとの併用治療を考慮する状況:shock、緑膿菌感染症が疑われる場合、多剤耐性菌が疑われる場合。
  • 通常、初期治療で抗MRSA薬(原則バンコマイシン)は不要であるが、以下の場合は併用が必要。特定の感染臓器の感染症(皮膚軟部組織感染症、カテーテル関連血流感染症、肺炎)が疑われる場合、血行動態が不安定な場合、グラム陽性球菌が血液培養から検出されている場合、MRSA保菌者、などが該当する。

(5)治療効果判定と治療薬の変更・追加(抗真菌薬を含む)

  • 正しい抗菌薬を使用していても、解熱まで固形癌の化学療法で2日、血液悪性腫瘍の化学療法で5日程度かかるとされる。患者の全身状態やバイタルサインが安定していれば、抗菌薬は変更せずに注意深く経過観察を行う。発熱が続くようであれば、血液培養を繰り返し採取する。
  • 血液培養で酵母様真菌を検出した場合には、ミカファンギンで治療を開始する。Candida血症が判明した場合には、診断時と好中球回復後に必ず眼内炎の検索(眼科コンサルト)を行う。
  • 治療開始して4-7日以上発熱が続く場合は、血液培養、βDグルカン、ガラクトマンナン検査、胸部CT を施行する。侵襲性肺アスペルギルス症などの侵襲性真菌感染症を疑う場合には、ボリコナゾール(またはアムホテシリンB脂質製剤)で治療を開始し、可能であれば、気管支鏡で、組織学的/微生物学的に診断を行う。気管支鏡が行えない場合は、喀痰培養(細菌・真菌)を行う(感度は低い)。

(6)治療期間

  • 臨床的または微生物学的に診断された感染症:好中球が500 /?L以上、かつ、特定された感染巣または微生物に対して十分な期間(例えばS. aureusであれば、血液培養陰性から4週間)。
  • 原因不明の発熱:解熱して2日以上経過、かつ、好中球が500 /?L以上になるまで。

(7)好中球減少中に使用する抗菌薬(腎機能が正常な場合)

  • 初期治療
     セフェピム 1回2g 8時間毎
     ピペラシリン/タゾバクタム 1回4.5g 6時間毎
     メロペネム 1回1g 8時間毎
  • GPCカバーを行う場合
     バンコマイシン 初回25-30mg/kg、2回目から15 mg/kg 12時間毎
    ※投与量は、薬剤部によるTDMを目安にする
  • Candida血症を疑う場合
     ミカファンギン 1回100-150mg 24時間毎
  • 侵襲性肺アスペルギルス症を疑う場合
     ボリコナゾール 6mg/kg 12時間毎(初日)、4mg/kg 12時間毎(2日目以降)
     投与開始5-7日後にトラフ濃度を測定し、投与量を調整する(薬剤部と相談する)

(7)参考文献

1) Clin Infect Dis. 2011;52:e56-93
2) 日本臨床腫瘍学会編:発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 改訂第2版, 南江堂, 2017
3) NCCN clinical practice guideline in oncology: Prevention and treatment of cancer-related infection (Version 1.2018) https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/infections.pdf [最終アクセス2018年6月15日]
4) J Clin Oncol. 2013;31:794-810

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注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育