亀田感染症ガイドライン:渡航者の発熱

渡航後に発熱を来して来院する患者さんは、どの施設でも、近年増加傾向と思います。初診時の診察の要点についてまとめました。PDFは、当院HPでダウンロード可能です

このまとめで紹介した便利なホームページは3つありますが、それを活用していただくのがよいと思います(米国のCDC、日本の厚生労働省FORTH、英国のFit for Travelのマラリアマップ)。

亀田感染症ガイドライン
「渡航者の発熱」

(1)ポイント

  • 発熱の原因が必ずしも渡航関連疾患とはかぎらない。「渡航関連」と思考停止せず、落ち着いて通常のよくある感染症のwork upも必ず行う
  • 渡航地域、期間、現地での行動、渡航前予防の有無で疾患を絞り込む
  • 熱帯熱マラリアの否定が最優先。サハラ以南アフリカは要注意!
  • 迷ったら原則として感染症科にコンサルト

(2)準備

  • 渡航帰りの患者が来る、とわかっている場合
    大体の地域、潜伏期間から疾患を予想し、必要な感染予防策を準備する。
     役立つHPをチェックしておく。
      CDCホームページ http://www.cdc.gov/travel
      FORTH http://www.forth.go.jp/
     空気感染予防:結核、麻疹、水痘
     飛沫感染予防:インフルエンザ
     接触感染予防:感染性腸炎
     特殊な対応が必要:MERSなど→感染症科へコンサルト

(3)病歴

1) 渡航地域を詳細に聴取する(同じ国でも地域でマラリアのリスクが違う)
Fit for travel http://www.fitfortravel.nhs.uk/home.aspx から詳細なマラリア地域がチェック可能。熱帯熱マラリアは特にサハラ以南アフリカがダントツに多い!
2) 渡航期間から、潜伏期間を正確に計算する。潜伏期間でかなり疾患が絞れる。直近の渡航以外の渡航歴も診断に役立つことがあるので、ここ1年くらいの渡航歴を聴取する。
 潜伏期間からの鑑別(Keystone Travel Medicine 3rd editionより、一部改変)

  • 2週以内;マラリア、デング熱、チクングニア熱、リケッチア症、レプトスピラ症、腸チフス、インフルエンザ、急性HIV感染、レジオネラ、ウイルス性脳炎(特に1週以内ならインフルエンザ、デング熱、チクングニア熱を考える)
  • 2-6週;マラリア、腸チフス、レプトスピラ、アメーバ性肝膿瘍、A型肝炎、E型肝炎、急性住血吸虫症
  • 6週以上;マラリア、結核、アメーバ性肝膿瘍、B型肝炎、E型肝炎、急性住血吸虫症、内臓リーシュマニア症 

3) 渡航地での行動(目的・食事・性交渉)
 目的:仕事や観光目的は比較的低リスク
    バックパッカー、知り合いを訪ねるような旅行は高リスク
 食事:屋台や現地の人との食事は高リスク
 性交渉:旅行者の20%は旅行先で新しいsexual partnerを見つける。必ず聴取!

4) 渡航前のワクチン・マラリア予防内服の有無
 しっかりワクチンを受けていれば除外できる疾患も多い
  A型肝炎、B型肝炎、日本脳炎、麻疹、風疹、髄膜炎菌
  黄熱、腸チフス:6-7割の予防効果、パラチフスは予防できない
 マラリア予防内服の内容(アドヒアランスも確認)

(4)臨床症状

皮疹:デング熱、チクングニア熱、リケッチア症、腸チフス、HIV、麻疹、急性住血吸虫症
腹痛:腸チフス、アメーバ性肝膿瘍
下痢:ウイルス性腸炎、細菌性腸炎(腸チフス含む)、慢性下痢(Giardiaなどを含む)
結膜充血:レプトスピラ症、ジカ熱
出血傾向:ウイルス性出血熱、髄膜炎菌菌血症、レプトスピラ症、リケッチア症
好酸球増多:住血吸虫症、肝蛭症など寄生虫疾患、薬剤アレルギー
肺浸潤影:肺炎(レジオネラ含む)、住血吸虫症、Q熱、メリオイドーシス
呼吸器症状:肺炎、MERS(リスクのある地域の場合)、インフルエンザ
意識障害:脳マラリア、ウイルス性・細菌性髄膜脳炎、アフリカトリパノソーマ症
伝染性単核症様:EBV、CMV、トキソプラズマ症、急性HIV感染

(5)初期対応時の検査

  • 上記のように問診、診察で鑑別を絞ったうえで
     血算(分画含む)、生化学(CRPを含む)
     血液培養2セット・尿定性/沈渣・尿培養・胸部X線
     マラリアを疑う場合、血液塗抹→感染症科にコンサルト
    インフルエンザ迅速検査(熱帯地方では常時流行)
     消化器症状あれば便培養
     呼吸器症状あれば喀痰培養
     トランスアミナーゼ上昇あればHAV、HBVの検索
     性感染症のリスクがあればHIV抗体を含むSTIスクリーニング(急性HIV感染症を疑う場合は、HIV-PCRが必要)
  • 渡航関連感染症が疑われる場合は、感染症科コンサルト。

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注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。


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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育