Cryptococcus species

【歴史/由来】 1, 2

  • 真菌という病原体の概念が確立する以前から、真菌症と考えられる疾患は認識されていた。ヒポクラテスの時代にも、口腔カンジダ症と考えられる病変の記録が残っている
  • 1830~1840年代には、皮膚病変などから真菌が観察され、ヒトの感染症の原因として認識されるようになった。これはPasteurやKochによって微生物による疾患の概念が確立される以前のことであった
  • Cryptococcusが初めてヒトの病原体として報告されたのは1894年で、若年女性の脛骨病変からSaccharomyces様の酵母が分離された。Busseはこの疾患をsaccharomycosis hominisと呼んだ
  • 同じ1894年、イタリアのSanfeliceが桃の果汁から同様の酵母を分離し、Saccharomyces neoformansと命名した。これらの菌は後に同一の菌種と考えられ、Cryptococcus neoformansという名称に統一された
  • その後も散発的な症例報告はあったが、クリプトコッカス症は長らくまれな疾患と考えられていた。主に免疫不全者に発症する日和見感染症であるが、免疫正常者にも発症しうる
  • 1980年代にHIV/AIDSが世界的に流行すると、クリプトコッカス症の症例数が急増し、AIDS患者における主要な日和見感染症の一つとして注目されるようになった
  • 2020年の推計では、クリプトコッカス症は世界のAIDS関連死の約19%を占めている。また、サハラ以南アフリカでは、HIV感染者における成人髄膜炎の原因として最も多い
  • HIV/AIDSに伴う膨大な疾病負担を背景に、診断法やスクリーニング法の整備が進んだ。クリプトコッカス抗原検査自体はAIDS流行以前から存在したが、簡便なlateral flow assayは2010年代初頭に実用化され、特に医療資源の限られた地域での迅速診断とスクリーニングを大きく改善した

【微生物学的特徴】 3, 4, 5

  • 病原性真菌の中でも、Cryptococcusの最大の特徴は、厚い多糖体莢膜をもつことである
  • 莢膜の主成分はglucuronoxylomannan(GXM)で、少量のglucuronoxylomannogalactan(GXMGal)やmannoproteinも含まれる
  • 莢膜は貪食を阻害するとともに、宿主の免疫応答を変調・抑制する重要な病原因子である
  • 墨汁法では莢膜自体は染色されず、黒い背景の中に透明なhaloとして観察されるため、Cryptococcusを迅速に推定する手がかりとなる
  • 感染宿主内では莢膜多糖が菌体周囲に放出され、免疫細胞の機能を抑制するなど、宿主免疫からの回避にも寄与する
  • Cryptococcusはウレアーゼを産生し、尿素をアンモニアとカルバミン酸に分解する
  • 血行性播種の際、菌体は脳の微小血管に機械的に捕捉される。ウレアーゼ活性は、その後のblood-brain barrier(BBB)通過を促進すると考えられている
  • その機序の一つとして、局所で産生されたアンモニアが血管内皮細胞やtight junctionを障害し、BBBの透過性を高める可能性が示唆されている
  • このほかにも、血管内皮細胞内を通過するtranscellular routeや、感染した単球・マクロファージに運ばれる“Trojan horse” mechanismなど、複数のBBB通過経路が提唱されている。これらの機構が、Cryptococcusの高い中枢神経親和性に関与していると考えられる
  • Cryptococcusはラッカーゼを介してカテコールアミンなどのジフェノール化合物からメラニンを産生し、酸化ストレスに対する抵抗性や病原性を高める
  • 人体内では主に出芽酵母として存在し、典型的な二形性真菌ではない。ただし、宿主内ではtitan cellなど、サイズや形態の異なる酵母型をとることがある

【臨床的特徴】 3, 4, 6, 7

  • HIV感染者、特に進行HIV感染症で多いが、その他の細胞性免疫不全者や、明らかな免疫不全のない患者にも発症する。近年、高所得国ではHIV非感染者の症例も多く認められている
  • 環境中の担子胞子や乾燥した小型酵母細胞を吸入し、多くは肺から感染が始まる
  • 感染は排除されることもあれば、肉芽腫内に封じ込められて潜伏することもある。免疫不全者では初感染が進展したり、潜伏感染が再活性化したりして、血行性播種を起こしうる
  • 播種するとさまざまな臓器に感染しうるが、特に中枢神経系への親和性が高い
  • 高度の免疫不全者では炎症反応が乏しく、肺炎や髄膜炎があっても、呼吸器症状、髄膜刺激症状、髄液細胞数の上昇などが目立たないことがある
  • 尿培養からCryptococcusが分離されることはまれであるが、播種性感染に伴う腎・尿路病変を反映している可能性がある。一方で、限局性尿路感染症として認められることもある
  • したがって、尿培養からCryptococcusまたは「非Candida酵母」が検出された場合には菌種を確認し、血清クリプトコッカス抗原、血液培養、画像検査、髄液検査などにより播種性感染や中枢神経感染を評価する必要がある
  • ただし、限局性尿路感染症では血清クリプトコッカス抗原が陰性となることもあり、抗原陰性だけではCryptococcus感染を否定できない

【治療】 8, 9, 10

  • 中枢神経系感染、播種性感染、重症肺クリプトコッカス症の治療は、導入療法(induction)、地固め療法(consolidation)、維持療法(maintenance)の3段階に分けられる
  • 導入療法は、リポソーマルアムホテリシンBとフルシトシンの併用が基本となる
  • 導入療法は通常2週間を基本とするが、宿主の免疫状態、感染部位、菌種、治療反応などによって延長する。非HIV患者、C. gattii感染、cryptococcoma、神経学的合併症や重症肺病変などでは、4~6週間行うこともある
  • その後、フルコナゾールによる地固め療法を少なくとも8週間行い、さらに低用量のフルコナゾールによる維持療法を行う
  • 中枢神経系感染や播種性感染では、維持療法を含めて治療期間は通常約1年以上となる。HIV感染者では、症状の改善に加えてARTによる免疫再構築を確認してから維持療法の終了を検討する
  • 播種性感染と重症肺クリプトコッカス症は、原則として中枢神経系感染と同様に治療する。一方、軽症の限局性肺病変や直接接種による皮膚感染では、フルコナゾール単剤など別の治療法を選択することがある
  • 使用可能な薬剤や医療資源に応じて、複数の代替レジメンが提案されている
  • アムホテリシンB投与中は腎機能、カリウム、マグネシウムなどの厳密なモニタリングと補液・電解質補充が必要となる。フルシトシンについても、腎機能に応じた用量調整や血球減少などの副作用の監視が必要である

【まとめポイント/クリニカルパール】

  • Cryptococcusは厚い多糖体莢膜をもつ酵母で、莢膜は貪食や炎症反応を抑制し、免疫回避に重要な役割を果たす
  • 主に肺から侵入し、血行性に播種する。特に中枢神経系への親和性が高い
  • 尿からCryptococcusが検出された場合、播種性感染の可能性を考え、中枢神経感染を含め全身評価が必要となる
  • 中枢神経系感染や播種性感染では、治療は複数の段階に分かれ、数か月から1年以上に及ぶ

【参考文献】

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育