Shewanella algae
門 Pseudomonadota 網 Gammaproteobacteria 目 Alteromonadales 科 Shewanellaceae 属 Shewanella
種 S. algae
Shewanella:ジェームズ・シェワンにちなんで algae:ラテン語のalga「海藻」
命名規約上、有効に発表された正式な名前としては、Shewanella属には2026/7時点で109種報告されている(1)。
【歴史】
1931年にDerbyとHammerが低温殺菌されたバターの表面の異臭の原因を調査していた際に腐敗したバターと水から細菌を分離しAchromobacter putrefaciensと名付けた。1941年にLongとHammerがPseudomonas属に移しPseudomonas putrefaciensと名付けるべきだと提案した。1974年版のBergey's Manual of Systematic Bacteriologyでは、P. putrefaciensは、主にG+C含有量が43-55%でPseudomonas sp.の範囲(58-70%)を下回っていたため、「species incertae sedis(位置が不確かな種)」に分類された(※つまりは、「これは本当に Pseudomonas属に置いてよいのか?」という疑問が生じたということ)。1985年に系統学的研究によりビブリオ科に再分類され、海洋微生物学におけるジェームズ・シェワンの功績を称えてShewanella属という新しい属名が付けられた。1990年代初頭SimiduらによってShewanella algaという新種として再分類され、1997年にS. algaeに修正された(2)。
【微生物学的特徴】
・Shewanella属菌はさまざまな水源、天然ガスおよび石油の貯蔵庫、乳製品、肉、魚から検出される。
・極単鞭毛を有する非発酵グラム陰性桿菌。オキシダーゼ陽性。ブドウ糖非発酵菌において硫化水素を産生する菌種。
・コロニーは凸状で円形、滑らかで、時に粘液状。褐色から黄褐色の可溶性色素を生成し、培地を緑色に変色させる。
・デンマークではS. putrefaciensとS. algaeは塩分濃度15-20%の海水から分離した報告がある。出現頻度は海水温と相関しているとされ、デンマーク沿岸水域の研究ではS. algaeは海水温が13℃を超える7月-10月にのみ検出された(3)。
・臨床検体から見つかるShewanella属菌のほとんどはS. putrefaciensとS. algaeであり、ヒトから分離された菌株の80%以上がS. algaeである可能性が高いとされている。S. putrefaciensとS. algaeの病原性に違いはないという報告がある一方でS. algaeの方が毒性が強い種であるという報告もある(2)。
【S. algaeとS. putrefaciensの鑑別】
かつてS. putrefaciens感染症が数多く報告されてきたが近年ヒトの臨床検体より分離されるShewanella属の大部分がS. algaeと判明している。これは2菌種の鑑別が困難であったことによるもので、細菌同定に用いる自動同定機器にはS. algaeのデータベースが含まれず、自動同定機器によりS. putrefaciensと同定された場合は注意が必要である。①性質、②16SrRNA、③gyrB遺伝子配列で同定する(4)。
S. algaeの性質は下記。
・42℃や6-6.5%のNaCL濃度存在下で発育すること
・羊血液寒天培地中48時間でβ溶血を示すこと
・SS寒天培地で発育すること
・ムコイドコロニーを形成すること
【抗菌薬感受性】
S. algaeとS. putrefaciensは、アミノグリコシド、カルバペネム系、キノロン系に感受性があるが、ペニシリンには耐性があるという特徴がある。アンピシリンとセファロスポリンに対する感受性は様々で、第1世代および第2世代のセファロスポリンよりも第3世代および第4世代のセファロスポリンに感受性のある分離株の方が多い(2)。フランスからの16症例と1973-2011年に発表された症例の合計260例の解析では、セフォタキシム、セフタジジム、セフェピム、ピペラシリン/タゾバクタム、ゲンタマイシン、トブラマイシン、シプロフロキサシンに90%以上の感受性を示した。一方でイミペネムは82%だった(5)。
カルバペネム系の方が感受性率低下する
Shewanella algae菌血症に対してイミペネムで治療中にカルバペネマーゼによってイミペネム耐性が出現した症例報告もある(6)。香港の単施設10年間128人の報告では、分離株の23.4%でイミペネム耐性だった(7)。
【耐性機序】
1 ポーリンの変化・閉鎖・減少:抗菌薬の細胞内侵入が制限
2 標的部位の変化;GyrAの変異など
3 酵素の不活性化;βラクタマーゼ
4 代謝バイパス
5 排出ポンプ:抗菌薬を細胞内から細胞外へ能動的に輸送
【臨床像】
Shewanella感染症としてはS. algaeによる耳の感染症(素因のある人の急性感染症または慢性中耳炎の急性増悪)の報告が多く、皮膚の潰瘍や外傷からの皮膚軟部組織感染症も一般的である。他に菌血症、肺炎、腹膜炎、胆道感染症、骨関節感染症、髄膜炎、脳膿瘍、感染性心内膜炎、感染性動脈瘤、眼感染症の症例報告もある(2)。ヘビ咬傷後のS. algaeによる壊死性軟部組織感染症の報告もある(8)。
フランスからの16症例と1973-2011年に発表された症例の合計260例の解析では、感染巣としては、菌血症、SSTI、腹腔内/胆道感染、呼吸器感染、耳感染が多かった(5)。
香港の単施設10年間128人の報告では、基礎疾患には肝胆道疾患、悪性腫瘍、慢性腎臓病または末期腎不全、糖尿病があげられていた(7)。
【予後】
香港の単施設10年間128人の報告では、30日死亡率は全体で8.6%だった(7)。確定症例(通常無菌である部位からShewanella sp.が分離された場合、または他の感染部位から単一の微生物として純粋増殖した場合)だと28.6%だった(7)。
【参考文献】
1 https://lpsn.dsmz.de/genus/shewanella
2 Holt HM、 Gahrn-Hansen B、 Bruun B. Shewanella algae and Shewanella putrefaciens: clinical and microbiological characteristics. Clin Microbiol Infect. 2005 May;11(5):347-52.
3 Gram L、 Bundvad A、 Melchiorsen J、 et al. Occurrence of Shewanella algae in Danish coastal water and effects of water temperature and culture conditions on its survival. Appl Environ Microbiol. 1999 Sep;65(9):3896-900.
4 清水恒広、松村康史:生魚の喫食後に発症したShewanella algae菌血症/化膿性椎体椎間板炎の1例. 感染症誌、2009;83:553~6.
5 Vignier N、 Barreau M、 Olive C、 et al. Human infection with Shewanella putrefaciens and S. algae: report of 16 cases in Martinique and review of the literature. Am J Trop Med Hyg. 2013 Jul;89(1):151-6.
6 Kim DM、 Kang CI、 Lee CS、 et al. Treatment failure due to emergence of resistance to carbapenem during therapy for Shewanella algae bacteremia. J Clin Microbiol. 2006 Mar;44(3):1172-4.
7 Ng WW、 Shum HP、 To KK、 et al. Emerging Infections Due to Shewanella spp.: A Case Series of 128 Cases Over 10 Years. Front Med (Lausanne). 2022 Apr 29;9:850938.
8 Liu PY、 Shi ZY、 Shyu CL、 et al. Cobra bite wound infection caused by Shewanella algae. Int J Infect Dis. 2014 Mar;20:11-2.
左:Salmonella sp.
S. algaeはブドウ糖・乳糖白糖を分解せず、硫化水素を産生する
S. algaeは7%Naclでも発育する
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育