microbiology round
microbiology roundでVeillonella parvulaについて取り上げました。
細菌名:Veillonella parvula
菌名由来:Veillonella = Veillon(発見者) parvula = 非常に小さい
分類:Bacillota:門 Negativicutes:綱 Veillonellales:目 Veillonellaceae:科 Veillonella:属
【概要】
Veillonella 属は1898 年にVeillon とZuber によって初めて分離され、当初はStaphylococcus parvulus と命名された。その後、1933 年に Prévot が新たに Veillonella parvula と Veillonella alcalescens の 2 菌種からなる Veillonella 属を提案した。現在、LPSN(List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature)にはVeillonella 属は 24 菌種が登録されており、ヒトから分離されるVeillonella 属には V. parvula、V. dispar、V. montpellierensis、V. atypica、V. denticariosi、V. infantium、V. rogosae、V. tobetuensis、V. seminalis がある。V. parvula はヒトや動物の口腔や腸管、泌尿器、婦人科領域に常在する細菌である。病原性は極めて低く、多くが日和見感染である。口腔内のバイオフィルム形成や歯周病、齲歯などが原因となって稀に菌血症や感染性心内膜炎、椎体炎などを引き起こす。典型的には複数菌感染症の一部である。
【微生物学的特徴】
V. parvula は、直径 0.3-0.5µm の小型の偏性嫌気性グラム陰性球菌であり、グラム染色においては双球菌や集塊状、あるいは短い連鎖状など様々な形態として観察される。類似した形態を示す菌として、Neisseria 属(例:Neisseria meningitidis、直径 0.6-0.8µm)と Moraxella 属(例:Moraxella catarrhalis、直径 1.0µm 前後)が挙げられるが、それぞれのサイズには差異がある。V. parvula はブルセラ HK 寒天培地において直径 1-3mm 程度の透明または灰白色のコロニーを形成する。V. parvula は MALDI バイオタイパーで同定可能である。嫌気性菌用同定キットでは、API 20 A キットを使用することで、Veillonella 属の中でもV. parvula のみ同定可能である。
写真1. グラム染色で、サイズは直径 0.3-0.5µmのグラム陰性球菌で、双球菌や集塊状、あるいは短い連鎖状など様々な形態で観察される。
写真2. 35℃、48 時間嫌気培養後のブルセラ HK 寒天培地、直径 1-3mm 程度の透明または灰白色のコロニーを形成する。
図1. 当院で検出されたVeillonella 属 菌の材料ごとの検出数(当院微生物検査室が作成した資料より抜粋)
検出数の最も多い材料は膿、膿瘍、創部であり、ほとんどが扁桃周囲膿瘍など口腔からの感染疑われた。検出菌はV. parvula が最も多く、次いでV. atypica、V. dispar となっている。
【臨床的特徴】
Veillonella属菌は、臨床的には齲蝕と歯周病の原因となるバイオフィルム形成への関与が指摘されている。感染症の原因となることはまれであるが、菌血症、髄膜炎、心内膜炎、腹膜炎、骨髄炎、椎体炎、脳膿瘍、腎盂腎炎、人工関節感染症の報告がある。Veillonella属菌の中で、V. atypica、V. parvula、V. alcalescens、V. dispar、V. montpellierensisによる菌血症や感染性心内膜炎の報告があり、また、V. parvulaによる髄膜炎や椎間板炎に伴う菌血症、骨髄炎、人工膝関節感染症なども報告がある。V. montpelluerensisは新生児の胃液と羊水サンプルから、加えて新種のV. seminalisは、精液、バルトリン腺膿瘍、肛門周囲膿瘍、鼠径部創部から同定されている。他のVeillonella属菌もげっ歯類の口腔内常在菌として分離されることがあるため、動物咬傷後の感染症で起因菌となる可能性がある。
【治療・薬剤耐性】
Veillonella属菌は、ペニシリン・セファロスポリン・クリンダマイシンに感性が一般的である。クロラムフェニコール・リンコマイシンには中程度の耐性が認められ、テトラサイクリン・エリスロマイシン・ゲンタマイシン・カナマイシンには耐性である。しかしながら、近年ペニシリンの耐性化が報告されている。2012年のReadyらの報告によると、58名の被験者から合計158株のVeillonellaが分離されたが、そのうちペニシリン耐性(MIC 8 mg/L以上)が63.9%、アンピシリン耐性(MIC 8 mg/L以上)が39.2%であった。また、ペニシリン耐性率が最も高かったのはV. dispar(73.4%)であり、アンピシリン耐性率が最も高かったのはV. atypica(46.7%)であった。
表1. 当院で2020 年1 月~2025 年3 月の期間に検出されたVeillonella 属 菌のアンチバイオグラム(n=51)
(当院微生物検査室が作成した資料より抜粋)
【参考文献】
・LPSN.dsmz.de(https://lpsn.dsmz.de/species/veillonella-parvula)
・Clin Infect Dis. 2000 Sep;31(3):839-40.
・Manual of clinical microbiology 13th edition p1020-0127
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 248, 2977-2984. e3
・北海道医療大学歯学雑誌, 2011, 30.1: 87-87.
・The journal of the Japanese Society for Clinical Microbiology 33 (4), 290-295, 2023.
・Anaerobe. 2024 Aug;88:102879.
・Int J Antimicrob Agents. 2012 Aug;40(2):188-9.
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
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