microbiology round
microbiology roundでRothia mucilaginosaについて取り上げました。
【概要】
・Rothia mucilaginosa(旧Stomatococcus mucilaginosus)は、ヒトの口腔内および上気道に常在する通性嫌気性のグラム陽性球菌である。
・属名であるRothia は、本菌の基礎研究を行なった微生物学者であるGenevieve D. Rothにちなんで名付けられた。mucilaginosusはラテン語で「ぬるぬるの」という意味である。
・Micrococcaeceae familyの「Rothia属」に含まれる。
・Rothia属には11の異なる種が含まれ、Rothia mucilaginosaの他にR. aeria、R. dentocariosa、R. koreensis、R. kristinaeがヒトの病原体として報告されており、種々の感染症を引き起こす。
【微生物学的特徴】
・コアグラーゼ陰性、莢膜形成、非芽胞形成、非運動性のグラム陽性球菌である。
・グラム染色ではクラスター状の配列で観察されることが多いが、2個または4個ペアのグラム陽性球菌として観察されることもある。
・生化学的にはカタラーゼ陰性または弱陽性、コアグラーゼテスト陰性、5% NaCl発育能陰性である。
・コロニーの性状は透明または白色で、寒天培地の表面に付着する性質を示す。
・これらの生化学的性状やコロニーの特徴により、本菌は類縁菌種である Staphylococcus 属や Micrococcus 属と区別できる。
【臨床的特徴】
・Rothia属菌はヒトの口腔咽頭および上気道に常在しており、齲歯および歯周病と関連している。
・Rothia属菌による侵襲性感染症は免疫不全宿主において報告されているが、健康な宿主での侵襲性疾患の報告は稀である。
・Rothia属菌による感染症は、菌血症、感染性心内膜炎、髄膜炎、腹膜炎、骨関節感染症、肺炎、皮膚軟部組織感染症、眼内炎、人工デバイス感染、などが報告されている。
・Rothia属菌による侵襲性感染症の危険因子には、糖尿病、アルコール依存症、慢性肝疾患、HIV感染などがある。
・特に高度の好中球減少を伴う血液腫瘍患者・中心静脈カテーテル留置患者・口腔消化管粘膜障害を有する患者との関連が強い。
・カテーテル関連血流感染症以外の菌血症の原因は、口腔・消化管粘膜病変からの侵入であることが多い。
・Rothia属菌血症に関する2つの大きなケースシリーズではR. mucilaginosaが主な菌種として同定され、その大部分が好中球減少と血液学的悪性腫瘍を有していた。
・好中球減少症患者に対するフルオロキノロン系薬の予防内服は、Rothia属菌血症のリスク因子である。これは、フルオロキノロン系薬の予防内服により、口腔内および腸管内の細菌叢がグラム陰性菌からRothia属菌や他のグラム陽性菌へと変化させる可能性があるためと考えられている。
【治療】
・CLSIはペニシリン、バンコマイシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、レボフロキサシン、ST合剤に対するブレイクポイントを定めている。
・本菌の抗菌薬感受性に関するデータは限られているが、ほとんどのケースでペニシリンやバンコマイシンに感性とされている。
・これまでにβラクタム、クリンダマイシン、エリスロマイシン、フルオロキノロンへの耐性が報告されている。特にバンコマイシンへの耐性はほとんどない。
・好中球減少患者由来の本菌分離菌株に対するキノロン系抗菌薬の MIC 値は、健常者由来の分離菌株と比べて高いとの報告がある。
・本菌の培地上での発育はときに緩徐であり、時に感受性試験が困難なケースもある。
【参考文献】
・K. C. Carrol, M. A. Pfaller, J. A. Karlowsky et al. Manual of Clinical Microbiology, 13th ed. p528, 1514
・LPSN - List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature. Genus: Rothia https://lpsn.dsmz.de/genus/rothia
・Collins MD, Hutson RA, et al. Int J Syst Evol Microbiol 50:1247–1251.
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・Abidi MZ, Ledeboer N, et al. Diagn Microbiol Infect Dis. 2016 May;85(1):116-20.
・CLSI M45-ED3:2016 Methods for Antimicrobial Dilution and Disk Susceptibility Testing of Infrequently Isolated or Fastidious Bacteria, 3rd Edition
・Von Eiff C, Herrmann M, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1995 Jan;39(1):268-70.
・Von Eiff C, Peters G. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998 Dec;17(12):890-2.
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
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