microbiology round

2024年9月19日のMicrobiology Roundは、Kocuria kristinaeを取り上げました。ポイントは下記です。
・グラム染色ではGPC clusterにみえるため、昔はよくCNSとして誤同定されていた。
・皮膚や粘膜の常在菌であり、悪性腫瘍などの基礎疾患がある患者における、菌血症や皮膚軟部組織感染症、感染性心内膜炎などが報告されている。
・ペニシリンは耐性が多く、バンコマイシンが第一選択薬として使用されることが多い。バンコマイシン耐性の場合には、他の菌が誤同定されている可能性を考える。

【歴史】(1)
・Kocuria:グラム染色陽性の球菌に関する先駆的な研究で知られる、スロバキアの微生物学者「Miroslav Kocur」より。kristinae:この生物が最初に分離された「Kristin Holding」より。
・Kocuria属は、1974年に「Micrococcus kristinae」で尿路感染症の起因菌として初めて報告され(2)、1995年にKocuria属となった(3)。List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature (LSPN)では、現在34種が登録されている。

【微生物学的特徴】(4)
・Kocuria属はMicrococcaceaeの仲間で、グラム陽性球菌、カタラーゼ陽性、コアグラーゼ陰性、サイズは0.6〜1.5μm。芽胞やendosporeを形成せず、非運動性でVoges–Proskauer test陰性。Micrococciやstaphylococciとの識別する主な基準は、バシトラシンやリゾチームに対してKocuria属は感受性(staphylococciは両者に耐性)がある点やnitrofurantoin/furazolidoneやlysostaphinに耐性(staphylococciは後者に感受性があるが、前者には耐性を示すことがある)である点である(5)
・K. kristinaeは0.7〜1.1μmで、4菌体または4菌体のクラスターを形成し、血液寒天培地などシンプルな培地において25〜37℃で増殖する(4)。コロニーは非溶血性で、滑らかな場合もあれば粗い場合もある。通常は凸状で淡いクリーム色から淡いオレンジ色まで様々。
・Vitek2やAPI、BD Phoenix systemなどの生化学的検査から同定できる(6)が、Vitekシステムの初期バージョンではcoagulase-negative staphylococci (CNS)がK. kristinaeとして誤同定されることがあった。そのため、理想的には16S rRNAやMatrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry (MALDI-TOF-MS)を併用して同定することが望ましい(7)

【疫学】(4)
・Kocuriaはヒトを含む哺乳類の皮膚や口腔咽頭、その他の粘膜表面の常在菌で、土壌にも生息している。K. kristinaeは、ソーセージやその他の肉製品から分離される。
・Kocuria属による感染症の患者の年齢は3ヵ月〜90歳(中央値は47歳)で、男性が68.3%との報告がある(7)
・患者背景としては、活動性の固形または血液の悪性腫瘍や抗癌化学療法、中心静脈カテーテル留置や中心静脈栄養、腹膜または血液透析が多く、歯の衛生状態不良や静脈内薬物使用、直近3ヶ月以内の抗菌薬暴露なども報告されている(7)

【臨床的特徴】(7)
・Kocuria属による感染症の報告73件(患者数は合計102例)のnarrative reviewでは、感染巣は菌血症(36.3%)、皮膚軟部組織感染(18.6%)、眼内炎(15.7%)、感染性心内膜炎(13.7%)、腹膜炎(11.8%)(特に腹膜透析関連)が多かった(7)
・起因菌はK. kristinaeが最多(46.1%)で、次いでK. rosaeが21.6%、K. variansが8.8%、K. rhizophilaが7.8%、K. marinaが4.9%であった(7)
・その他の感染巣としては、上下気道や中枢神経、角膜や関節などが報告されている(7,8)

【治療・予後】
・抗菌薬感受性については、E-テストやディスク拡散法が最もよく用いられている。Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)では、Micrococcus属に準じてペニシリン、バンコマイシン、エリスロマイシンとクリンダマイシンのみminimal inhibitory concentration (MIC)によるブレイクポイントが設定されている(9)。The European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)では設定されていない。
・耐性率はマクロライドが52.4%、ペニシリンが51%、クリンダマイシンが44.7%、アミノグリコシド耐性が36.2%、トリメトプリム-スルファメトキサゾールが30.4%、キノロンが28.4%、セファロスポリンが17.9%、リファンピシンが16.7%、バンコマイシンが7%、テトラサイクリンが6.7%と報告されている(7)が、バンコマイシン耐性の場合には、他の菌の誤同定の可能性を考える(9)
・最適治療は定まっていないが、これまでの報告ではバンコマイシン(小児の報告ではバンコマイシンまたはテイコプラニン)が使用されていることが多い(7,8,10)
・全死亡率は5.9%で、Kocuria属による感染症に直接起因する死亡率は4.9%であった(7)

【参考文献】
1. LPSN - List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature “Kocuria kristinae” [Internet]. [cited 2024 Sep 20]. Available from: https://lpsn.dsmz.de/species/kocuria-kristinae
2. Kloos WE, TGT and KHS. Isolation and characterization of micrococci from human skin, including two new species: Micrococcus lylae and Micrococcus kristinae. Int J Syst Bacteriol. 1974;2479–101.
3. STACKEBRANDT E, KOCH C, GVOZDIAK O, SCHUMANN P. Taxonomic Dissection of the Genus Micrococcus: Kocuria gen. nov., Nesterenkonia gen. nov., Kytococcus gen. nov., Dermacoccus gen. nov., and Micrococcus Cohn 1872 gen. emend. Int J Syst Bacteriol. 1995 Oct 1;45(4):682–92.
4. Savini V, Catavitello C, Masciarelli G, Astolfi D, Balbinot A, Bianco A, et al. Drug sensitivity and clinical impact of members of the genus Kocuria. J Med Microbiol. 2010 Dec 1;59(12):1395–402.
5. Baker JS. Comparison of various methods for differentiation of staphylococci and micrococci. J Clin Microbiol. 1984 Jun;19(6):875–9.
6. Boudewijns M, Vandeven J, Verhaegen J. Vitek 2 Automated Identification System and Kocuria kristinae. J Clin Microbiol. 2005 Nov;43(11):5832–5832.
7. Ziogou A, Giannakodimos I, Giannakodimos A, Baliou S, Ioannou P. Kocuria Species Infections in Humans—A Narrative Review. Microorganisms. 2023 Sep 21;11(9):2362.
8. Živković Zarić RS, Pejčić A V., Janković SM, Kostić MJ, Milosavljević MN, Milosavljević MJ, et al. Antimicrobial treatment of Kocuria kristinae invasive infections: Systematic review. Journal of Chemotherapy. 2019 Apr 3;31(3):109–19.
9. Clinical and Laboratory Standards Institute. CLSI M45-ED3:2016 Methods for Antimicrobial Dilution and Disk Susceptibility Testing of Infrequently Isolated or Fastidious Bacteria, 3rd Edition. 2016.
10. Zhang Y, Hu Q, Li Z, Kang Z, Zhang L. Kocuria species: an underappreciated pathogen in pediatric patients—a single-center retrospective analysis of 10 years’ experience in China. Diagn Microbiol Infect Dis. 2023 Dec;107(4):116078.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育